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カラフル
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あかいろ-6


 私達は食事を終えて店を出た。 

 最上級の味を提供してくれたその店は、料金も驚くほど安かった。と言いたい所であるが、さほど安くは無かった。店構えから言えばかなり高く、味から言えばかなり安いと思える金額だった。

 しかし、食事と一緒に大量に接収した紹興酒が回り、私はすこぶる気分が良かった。

 月も輝いている。

「散歩しない?」私が言うと

「やっと自分の意見を言えたのね。それも素敵な提案」

 そう言って、彼女は素晴らしい笑顔を作った。

 私達は鎗ヶ碕を抜け、目黒川に出た。目黒川沿いの歩道をブラブラと手を繋いで歩き、時折立ち止ってはキスをした。

 会話はほとんど無かった。口づけだけが、その夜の私達の会話だった。短く微かに唇を濡らすキスもあれば、長く甘いキスもあった。

 川にかかる小さな橋の上から、川に迫り出す桜並木の若葉の先に、水面に映る街の明かりと、青い空に浮かぶ明るい月を眺めた。

 しかしすぐに私は、景色に背を向けて、欄干にもたれ掛かりながら、紅葉を見つめていた。私にとって、それはどんな美しい夜景を眺めるよりも幸せな時間だった。

 私の視線に気づいた紅葉は、恥じらいの表情を浮かべ、それでも私の瞳をしっかりと見つめながら、スローモーションのような、ゆっくりとした速度で唇を近付けて来た。そして2人の唇が触れ合った途端、彼女は私の頭を強く引き寄せ、髪の毛を荒らしくまさぐりながら、熱い舌を差し入れて来た。彼女は足を絡め、身体の全てを密着させて、今までで最も熱い口づけをした。彼女の舌は私の舌に絡みつき、2人の溢れる唾液は私の喉仏にまでしたたり落ちた。

 私の脳の中には赤い閃光が煌めき、身体が溶けて行くような、それでいて何処かに昇って行くような、融解と昇華が同時に訪れた。

 肉体が消えて行きそうな、永遠に続く快楽に私は怯えたのだろうか、熱く脈打つ自分の欲望に促されたのだろうか、身体を引き離して、荒い息のまま言った。

「待って…… 部屋に行かない? すぐ近くなんだ……」

 紅葉の吐く息の匂いと湿度は、まだ私の目の前にあり、濡れた赤い瞳が真っ直ぐに私を見つめて言った。

「いいわよ…… 貴方がそうしたいなら。SEXがしたいんでしょ?」

「あ…… いや…… うん。そうだ。君を抱きたい」

「そう…… かまわないけど…… 私は今凄く幸せだったの。最高に幸せだった…… でも、貴方がそれで物足りないって思うならしかたがないわね…… 貴方には、今の幸せを壊さない自信があるのね?」

 私の思考は停止した。言葉も、欲望も、呼吸さえ、彼女が奪い去ってしまった。

 私は自分の心の深い場所を見つめ、役立たずな脳の機能を奮い起こし、やっと自分の中の真実に辿り着いた。そして、彼女に会ってから、初めて一番まともな言葉を口にした。

「月が綺麗過ぎる。やっぱりこのまま歩き続けよう……」

 紅葉は、その言葉を聞くと、美しい顔をほころばせて、優しい口づけをくれた。

「貴方は、初めて会った夜、私が感じた通りのいい男。素敵よ」

 そう言って、私の手をきつく握り、夜空の向こうに連れて行った。

 その夜私達は、何度もキスをしながら、月の下をいつまでも歩き続けた。

 私は知った。紅葉は全てを持っていた。恵まれた家庭環境、裕福、知性、能力、美貌…… そしてその他にも、人がどちらかしか手に入れられない、相反する二つの物を、どちらも持っていたのだ。
 西洋と東洋、大人と子供、良女と悪女、強さとかよわさ、夢と現実、無垢とけがれ、可憐と妖艶、憂いと奔放、男っぽさと女らしさ、飽きっぽさと執着、灼熱と酷寒、などなどなどなど、もっともっと沢山の様々な要素が入り交じり、彼女を凄まじい色に染め上げていた。

 それは燃え盛る紅蓮の炎よりも熱い「あかいろ」であった。



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