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カラフル
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あおいろ-5


 瑠璃子は部屋に入ると、辺りを見回して、

「凄い沢山映画があるね!? 何か入れて」

 そう言いながら、私が抱き枕にしている、150cmほどのボーダーのぬいぐるみを、抱きかかえて、ソファアに身を投げ出した。その日彼女が着ていた黒いミニスカートから、美しい大腿が露わになった。

 私は、ぬいぐるみが、涎臭く無いか気がかりであったが、取りあえず2本の缶ビールを取り出し、冷えたグラスを添えて、テーブルに並べた。映画は、恋愛物も、アクションも、SFも違うと思われ迷ったが、結局ポールニューマンの「ハスラー」を流した。

 瑠璃子は「いいね」と言って、ソファーに足を上げて、横たわるように座り、ビールをグラスに注ぎ、半分を私のグラスに注いでくれたので、私達はグラスを鳴らした。

 しかし、ソファーは彼女に占領され、私の座る場所が無かった。私は彼女の頭の側の、カーペットに直接座り、肘をソファーに掛けた。30cm程の距離に、彼女の顔があり、彼女の香水の匂いは、悪戯に心まで染みて来た。

 私はその奇跡的な状況に酔っていたが、どうしても気になって仕方が無かったので、聞いた。

「ねえ。その抱き枕、涎臭くない?」

 瑠璃子は、優しい笑顔で答えた。

「うん。くさい…… でも、嫌いじゃない」

 そう言うと、縫いぐるみを離し、右手で私の頭を引き寄せると、熱い口づけをした。

 初めは余りの事に戸惑っていた私も、それがいつまでも長く続くので、抑え込んで来た欲望の扉を開け放った。

「彼女が鍵を開けてくれたのだ。何も問題ではない」私はそう思い、彼女に覆いかぶさってより深く彼女に舌を絡めた。そして、両手で、憧れだった彼女の身体をまさぐった。その時、彼女が強く身を引いて

「だめ! ここまで! お願い。SEXはしないって言ったでしょ? 瑠璃子は付き合った人としかしないの。わかって。それが瑠璃子なの……」

 瑠璃子はそう言ったが、その言葉に彼女のいつもの力強さは無かった。それに、解き放たれた私の欲望は、乱暴なまでに彼女を求めていた。私は彼女の言葉を無視して、唇を求め、乳房を揉みしだき、短いスカートの中の下着に手を伸ばした。

「待って! 本当に待って! だめ! いけない…… あっ」

 やはり、彼女の言葉に、いつもの全てを従わせてしまう、強い意思の姿が見えなかった。

「どうして? 弱くなるんでしょ? 自分の決めたルールに拘るなんて、強く無ければできないよ。瑠璃子は弱い女を探してるんでしょ? ここにいるよ……」

 私はそう言って、怯む彼女の隙をついて、小さな黒い下着の中へ、指先を滑り込ませた。そこは驚くほど熱く、濡れていた。

「あっ…… あっ…… でも…… だめ…… 汗いっぱいかいてるし…… だめ。シャワー浴びたい……」彼女の許しの言葉が聞こえた。しかし、私は言った。

「僕もそうだよ。汗だくだった。恥ずかしい。けど、シャワーを浴びて『さあ。やりましょう』っていうのも、もっと恥ずかしい。もう出来なくなってしまうかも知れない。今、このまま、お互いの弱さと、汚さをさらけ出したまま、欲望の勢いを借りて愛し合おう」

 そして、瑠璃子の返事を待つ事無く、彼女の服を剥ぎ取るように脱がせ、彼女を全裸にした。
 
 窓から差し込む真昼の陽光の下には、ソファーに横たわった、羞恥に震える完璧な裸身があった。彼女は無言で下唇を噛み締めて、恥ずかしさに身を染めていた。

「パーフェクトだね」私は呟き、憧れであった彼女の身体をゆっくりと見下ろしていた。全裸で横たわった女の脇に、服を着たまま立つ私に、もう、焦る心は無かった。
 私は彼女の裸身に寄り添い、ゆっくりと、そしてじっくりと、彼女の羞恥のすべての匂いを嗅ぎ、舌を這わせ、その味を楽しんだ。

 そこに私の知っている、強い瑠璃子はどこにも存在しなかった。私がかつて夢想した彼女のSEXは、野性的で、情熱に溢れる物だった。
 しかし、今、目の前にいる彼女は、ただただ恥じらいながら、されるがまま、全てを私の手に委ね、時折、小さな喜びの声を上げるだけの、か弱い一人の女であるだけだった。そして、優しく私を迎え入れ、包み込んだ。
  
 そこは、深い海の底に似て、穏やかで温かなうねりが心地よく、天上の光が微かに届き、その光がキラキラと輝く、深い青の世界だった。



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