投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

カラフル
【その他 官能小説】

カラフルの最初へ カラフル 12 カラフル 14 カラフルの最後へ

あおいろ-3


 それは日曜の朝で、私もその日特に予定があった訳では無いのだが、酔いも回り、少し聞き疲れた事もあったので

「え? 今日はもう帰ろうよ。少し何か食べて帰る?」と言ったのだが、

「ふ〜ん…… 付き合わないんだ…… つまんない男」と言って、遠い目をした。

 考えて見れば、そんな風に店が引けた後に、飲みに誘われたのは初めての事だった。だいたい「お腹減った。何か食べに行こ」と言って、24時間営業のすし屋であったり、ラーメン屋であったり、マクドナルドなどに行くのだが、必ず、酔った彼女は大量の注文をして、大半を食べ残し「ごめん。やっぱり、あんまり食べれなかった」と言って帰って行った。それを思えば、飲みの方が良いかも知れない…… それに、彼女の美しい顔は、どれだけ眺めていても飽きないのだ。

「よし! 行こう! 飲んじゃお!」

 私はそう言って、早くもギラギラと照付ける真夏の日差しの中で、タクシーを止めた。そして一応朝10時まで営業しているバアに向かったのだが、その店は客が居れば、昼頃まで開けていて、ある日その店を出ると、午後1時を回っていた事があったほどの、酔いどれの為の店だった。

 瑠璃子と2人だと、タクシーに乗るだけで気分が良い。車の乗り降りや、歩く姿全てに無駄が無く、美しい身の捌きをする。それに運転手や通り過ぎる人々から、私は羨望の眼差しを向けられるのだ。その朝は、蝉までが騒々しく騒ぎ立て、私を羨んでいるようだった。

 店のドアを開けると、その時間になってもやはりその店だけは立て込んでいた。

「あら。お珍しいお2人で…… ちょと待って下さい。すぐ席を作りますね」

 そう言って、顔見知りの長髪に髭面のバーテンは、無理やり客を詰めさせて、カウンターに2人の席を用意した。

「何をお作りしましょうか?」

 瑠璃子がすかさず答えた。

「ハイボールのメガ二杯!」

 でた…… メガと言うのはその店の名物で、ビアガーデン用の大ジョッキを使った、特大サイズの飲み物の種類である。

「はい! じゃあ、乾杯!」

両 手で特大ジャッキを持ち上げた瑠璃子が、笑顔で言った。たまらない笑顔だった。
しかし、その飲み物に口を付けた後、彼女の笑顔は消えて、俯いたまま、顔にかかる髪を気怠そうにかき上げながら、ポツポツと話し出した。

「瑠璃子ね…… ふられちゃった? 別れちゃった? まあどっちでもいいけど…… 別れたの」

 私は何も言わずに、彼女の話の続きを待った。

「5年も付き合ったのにね…… 結局何にも残らなかったわ…… そりゃ思い出はいっぱい残ってるけど、恋愛の思い出って、本当に不必要な物だと思うの…… その中に駄目になった理由を探して自分を否定するし、先に進む邪魔をするし、その思い出が素晴らしければ素晴らしいほど、自分が嫌になるもの…… 恋愛が残すものは、先にあるものだけでいいよね?」

「先にあるもの? って?」

「う〜ん よく分からないけど、影響を受けて始めた趣味だったり…… 子供? だったり……」

「子供? 結婚じゃ無くて、恋愛で? ふふふ…… 瑠璃子らしいね」

「同じよ。届けるか、届けないかだけ」

 私は初めてアンニュイに話す瑠璃子を見て、その美しさに呆れていた。

「その人が言ったの…… 『お前は強すぎる』って…… 今さら何言ってんの?って感じ。だってその私が好きで付き合った訳でしょ? あげくに「強いから、別れても大丈夫だよ」って、ふざけるなっ! って話だわ…… 何か自分の守って来た物を、けなされて、壊されちゃったみたいで…… 今はもう彼の事はどうでもいいの。だけど、否定された自分が建て直せないのね……」

 瑠璃子はそう言って、なお深く俯き、瞳に涙をためた。


カラフルの最初へ カラフル 12 カラフル 14 カラフルの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前