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カラフル
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あおいろ-2


 昼間の熱を引き摺ったままの、暑い夏の終わりの夜だった。夜が深まっても、蝉の声が騒々しく、彼らにとっては、命の思いを叫ぶ最後の夜に、相応しい夜だったのかも知れない。

 私は数件の店を飲み歩き、最後に1杯と思い、瑠璃子の店に入った。時間は午前4時近くになっていた。

 店に入ると、すさまじく冷房が効いていて、汗に濡れたシャツが一気に冷やされて、寒く感じるほど心地よかった。冷房も効く筈である。店に客は一人もいなかったのだ。

 カウンター越しに、瑠璃子に挨拶をすると、珍しく彼女は酔っていた。いつもの素敵な笑顔も眠たげだったが、私のオーダーも聞かずに、グラスに氷を満たしながら、「ごちそうさまです」と笑いながら言って、勝手に自分のグラスにも氷を満たした。そしてジャックダニエルのボトルを棚から抜き取ると、その首を掴んだままカウンターを出て、私の隣に座った。そしてコポコポと音を立てながら、二人のグラスに酒を注いだ。

「はい。かんぱい。おつかれさま。どこで飲んで来たの?」

「うん。あちこち2,3軒回って来た。暑くって…… ここは寒いぐらいだね?」

「ふ〜ん…… 何それ? 嫌味?」

「いや! そうじゃなくて……」

「まあいいわ。でももう寒いなんて言わせないから。さあ! 飲むわよ! それ一気に飲んで!」

 これはかなり出来上がってるな、と思いながらも、彼女の機嫌を損ねないように、ぐびぐびとグラスの半分ほどを一気に喉に流し込んだ。彼女の言う通り、寒さは吹き飛んだ。

「よし!」

 彼女はそう言うと、自分も2口ほど煽り「ふ〜」と細い息を吐き出して笑った。そして又、2人のグラスにたっぷりと注ぎ足した。

「今日は酔いたいんだ…… 付き合ってよ」

「あっ…… うんいいけど…… もうすでにかなりだよね?」

「……」

 彼女は白い目で私を見ると、スツールを滑り降りて、カウンターに入り、凍ったテキーラを取り出すと、二つのショットグラスに注いだ。

「はい! これから下らない事、言うたびにこれね!?」

 そう言うと、グラスを掴んで一気に飲み干した。私も慌てて飲み干したが、私自身既にかなり飲んでおり、流石に厳しい一杯だった。

「どうしたの? めずらしいね?」

 私の質問を黙殺しながら、又カウンターを出て、隣に座ると言った。

「女もね…… 35過ぎると色々あるのよ……」

「え!? もうそんなに行ったっけ? あっ いや、そんなにと言うか…… まだ30ぐらいだと思ってた」

「今年7になる…… 知り合った頃が30ぐらいだったから、もう7年ね……」

そうか…… 私の中で彼女の年は、止まったままだったのか……

「そうか〜 そんなに経っちゃったか。でもまだ全然若いじゃん? 俺なんか57…… 40超えた時には、さほど感じなかった衰えが、50超えると、てきめんに現れるからね…… もう、身体の色々な事をだましだまし生きてるよ」

「男はいいのよ…… 50になっても60になっても、お腹が出ても、たるんでも、剥げても、染みだらけになっても、中身さえあれば、恋も出来るし、SEXも出来るでしょ?」

「あ…… いや、まあそうだよね」

「女はね、美しくなくなったら終わりよ。あとは女じゃ無くて、ただの人間として生きるだけ……」

「へ〜 瑠璃子がそんな事言うなんて、誰も思ってないよ。だっていつまで経っても、絶対的に瑠璃子は、瑠璃子じゃん」

「瑠璃子は瑠璃子よ。でも、女じゃ無くなるの…… さっ! 飲むわよ!」

 そう言って、又ぐびぐびと喉を鳴らして、ジャックダニエルを流し込んだ。

 その後瑠璃子は、今、世間で話題の、スポーツ、芸能、政治問題などを取り留めなく話し続け、驚き、喜び、感心し、文句を言った。私はグラスを舐めながら「うん。うん」と相槌を打ちつつ話を聞いていた。

 内心は、今夜、瑠璃子が落ち込んでいる、本当の理由を考えていたが、それは口に出さなかった。彼女が話したくなったら、自分から話すだろうし、話したくなければ死んでも話さないからだ。

 気付くと時間は朝の8時を過ぎており、その店の閉店時間はとっくに過ぎていた。

「結局、誰も来なかったね」

 瑠璃子は少しよろけながら、店の看板を下ろした。

「さっ! 飲みに行くよ!」


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