きいろ-4
次に二人で会った時に、私は彩葉の秘密が解けたような気がした。
彼女の異常な怯えや、挙動の不振さは、人混みの中や、他人に囲まれた時に強く表れ、まれには少人数の中でも片鱗を見せたが、二人っきりになると、まったくその姿は現れなかった。それはきっと私に対してそうであるだけでは無く、知人に対しては全般にそうであると思われた。それは他人の中で自分自身の処遇を決定できない時に見せる挙動であり、多人数の中では、彼女は自分自身の人格を一つの型に当てはめられずに、いわゆるゲシュタルト崩壊を起こしてしまうのだと思われた。彼女が自身の姿を形作れる場面は、知人の一人との個対個の人間関係の間に限られていたのだ。
その為か、その後彩葉は、私の部屋で二人だけで会う事を望んだ。
彼女は二人きりになると、自分の全てを曝け出し、私の全てを欲しがった。
「もっと君を喜ばせたい。どうして欲しいの? 何がして欲しい?」
私が聞くと、彼女は言った。
「貴方の好きなようにして欲しいの…… なんでもいう事を聞くわ……」
そう言って、黒い瞳を赤い炎で潤ませて、密に生えた睫毛を震わせた。
翌週、彩葉を待つ私の部屋のテーブルには、様々な道具が並べられていた。とは言え、私の中には本来のサディスティックな感情は皆無で、女性が痛がったり、嫌がったりするのを見ると、それだけで萎えてしまう性格だった為、その限りではあったが、それ故、私にとっても実際には初めて目にする物も多かった。
彼女は部屋に入り、その光景を目にすると、立ち竦み、他人の人ごみにまみれた時のように身体を震わせたが、瞳は喜びに濡れていた。
私は無言で、彼女にアイマスクを付け、服を脱がせた。そして下着姿の彼女に首輪を付けて、腕輪と足かせを使ってベッドに拘束した。豊かな胸と、張りのある腰に、細い足と腕を持った、無抵抗の小さな彼女の姿は、生ける人形のように美しかった。
その彼女の姿に、私の興奮の扉が開き、さらなる未知の世界への快楽を探った。
私は彼女をそのままにして置き、ボリュームを上げたオーディオで、AC/DCのけたたましいロックを流した。そしてグラスにジャックダニエルを注ぎ、少しずつ舐めながら彼女を見つめていた。彼女は時折体をくねらせるものの、何も言わずに、吐く息だけを荒くして行った。
私はグラスのウイスキイを口に含むと、彼女の脇に腰を下ろし、開いた唇の間に、それを流し込んだ。喉を鳴らしてそれを飲み干した彼女は、再び小さく口を開けて、無言でお代わりをねだった。私がそれを与えると、彼女が私の唇を強く噛んだ。そして更に呼吸を荒げ、体中が熱を帯びた。皮膚は汗ばみ、黒髪が喉と胸に絡みついていた。高まった体温が体中から甘酸っぱい体臭を放ち、それは私の渇いた部屋を満たした。私はその香りが生まれる場所を求めて、鼻の先を彼女の汗に濡らしながら、頭の中では、テーブルに並べた様々な道具を思い浮かべていた。
私達は新しい喜びを知り。新しい愛の形を学んだ。その色は、狂気に似た夏の花の色であった。