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カラフル
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みどりいろ-4


 食事を済ませたあと、行きつけのバアを数件、一、二杯ずつのハイペースで回った。私は多分、知り合いのバーテン達に、今夜のデート相手の若さを自慢したかったのであろう。

 最後に立ち寄った店は。お目当てのバーテンが休みで、初めて会うバーテンが立っていた。店には他に客も居なくて、翠と私は、誰に邪魔される事無く、静かに話をした。

 彼女が私の耳に、口を寄せて囁いた。

「ごめんなさい。私…… 二十歳って言いましたけど、本当は十九なんです。お酒の席なので、友達と、そうしておこうって決めてて」

 私は呆気にとらわれた。二十歳と十九、たった一歳の違いではあるけれど、そこには大きな隔たりがあるように感じられた。

「え!? そうなんだ…… あっ じゃあ今年、もうすぐ成人式なんだね?」

「いえ…… 成人式も来年なんです。まだ十九になったばかりで……」

「え!? え!? じゃあ去年の今頃は、まだ制服を着た、高校生だったって事!?」

「はい! うちの高校、制服が凄く可愛かったんですよ! その制服が着たくて、受験したぐらいなんです! 今度、持って来て着てみますね!」

 いやいやいや、それはまずいでしょう…… 完全に捕まってしまう…… 私はそう思った。

「いや。きっと凄く可愛いだろうけど、それは止めておこうね」

 しかし、そう言いながらも、私の心は、制服姿の翠を思い、ときめきを速めた

「そうですよね。やっぱり問題ですよね?」

 そう言って、赤く薄い唇の間から、桃色の舌を出して笑った。

 翠は余り酒が強くなかった。どの店でも最初の一杯を舐めるように少しずつ飲み、必ずグラスに残して店を出た。それでも、その頃には酔いを頬と瞳に表していた。午前二時を過ぎていた。

「そろそろ次の店に行こうか?」

「はい……」と答えた彼女の薄い瞼が、二度三度気怠そうに落ちて来た。


「眠い?」

「はい。少し……」

 そう言った彼女の右手が、私の左の腿に乗せられた。爪に赤いフレンチネールを施したその手は、驚くほど熱かった。

 彼女の帰る電車は終わっている、彼女の住む国立まではタクシーで一万円ほどかかるだろう。私の心臓は、彼女に届かない程の音で、鼓動を速めていた。

「どうしよう? タクシー代を渡すから、家に帰る? それとも、カラオケにでも入って、少し眠る? 僕の家、近いけど…… 少し休んで行く?」

 もはや、私の鼓動は、彼女にも聞こえていたに違いない。

「…… おじゃましてもいいですか?」

 私の腿に乗せた手の指先に微かに力が加わり、黒く大きな瞳は、真っ直ぐに私を見つめたが、その眉尻は大きく下がり、私に無言の約束を迫っているようだった。

 タクシーの中で、翠は私の肩に頭を乗せて、眠っているようだった。今夜の彼女の香水は、先週付けていた、少女の甘さの物では無く、微かに刺激のある甘みが、大人の女を感じさせる物だった。そして彼女の髪からは、蕾が花開いたばかりの匂いがして、私は思わず彼女の手に自分の手を重ねた。すると彼女の手がゆっくりと動き、私の親指を包み込むと、きつく握りしめた。



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