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カラフル
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みどりいろ-2


 私は、流行に直ぐに飛びつく事は嫌いであったが、何事も一度は経験してみないと気の済まない質であった。四十才になった時「そろそろいいんじゃないか?」とピアスを開けた。そして五十歳になった時、悩んだ挙句、右手の人差し指と、親指の付け根に、米粒ほどのハート型のタトゥを入れたのだった。

 私には、長年の無防備な外遊びの忘れ物として、大小、濃淡様々なシミが体中に出来ていて、勿論それは、手にも散りばめられていた。その為私のタトゥは、私が自ら話さない限り、今まで誰にも相手から気付かれた事が無かった。又、それを目論んで施した物でもあったのだ。しかし、翠はそれを一瞬で見極めたのだ。

「凄い! 良く見つけたね⁉ 初めてだよ、見つけられたの。目が良いんだね?」と、私が言うと、

「いえ。目は悪いんです。コンタクトしてますから」

 私は、その言葉にさらに驚かされた。

「え? 凄い! それなのに…… 凄い!」

「だって…… 可愛いハートですもん……」

 私は、その言葉を聞いて、私の心を見透かされているかのような錯覚を覚えて、自分自身のハートを可愛いと言われたように、恥が頬に昇った。そしてそれと同時に、彼女をもっと知りたいと言う欲求が生まれた。
「どうせもう会う事も無いだろう……」そう思い、恥をかなぐり捨て、彼女の耳元に口を寄せて囁いた。

「また、今度、飲みに行かない? 連絡先を教えてよ」

「はい! 是非! ラインでいいですか?」一瞬の迷いも無く、彼女は笑顔で答えた。

 私は彼女に自分の携帯を渡して、登録を頼んだ。彼女のピンクの爪が私の携帯をいじっている時、彼女の切れ長な瞳の上の、細く長い眉尻が下がり、眉間に微かに皺がよった。その表情に秘められた魔力は、私の心を優しく握り締めると同時に、もっと様々な彼女の表情を見たいと言う欲望を芽生えさせた。

 早朝の電車が動き出し、ドアまで見送った私に向かって、彼女達は口々に「ごちそうさまでした」と言いながら手を振り、帰って行った。翠は彼女たちの一番後ろに居たが、彼女の頬は赤く凍え、吐く息は無垢に白く、その姿は少女を思わせた。しかし瞳の奥に住む全く別の一人の女が、やけに大人びた別れを告げていた。

「いや〜 若い子は、開けっぴろげでいいすね〜」

 私はバーテンの言葉に、曖昧に相槌を打ちながら、通りすがりに、少しの時間を遊んでもらい、結局置き去りにされてしまった野良犬の顔で、グラスに残ったウイスキイを舐めながら、翠が携帯に残したラインのIDを見つめていた。
 彼女の瞳と眉の動きが作り出した、魔法のダンス、を思い出し、懐かしいような、恋心のような、甘い感傷に侵されていたが、表を行くごみ収集車の立てる騒音の現実が、私を夢の世界から引き摺り出した。

「きっと、これきりだろう……」

 そう独り言を呟き、孤独を迎えに家に帰った。


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