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熱帯魚の躾方
【SM 官能小説】

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映画(一)-1

 沙莉との調教の日々をモデルにした小説『熱帯魚の躾方』は正樹賞受賞もあって大ヒットした。海外でも電子書籍からヒットし、書籍化もされる見通しだという。
 編集長と美羽から強く次回作の執筆を求められたが、どうにも筆を取る気にはなれない。
 今日もボーっとしながら熱帯魚たちの世話をしている。テレビで観る沙莉は髪が伸びて出会った頃位になった。前髪は切らずに左右に分けて流している。緩いウェーブがかった髪型が大人っぽくなった沙莉によく似合う。来月で二十七歳になる沙莉は更に美しく成長している。

「先生!大変!大変!」「何かあったのか?」二人の身を心配する。「映画化の話来てますよ!」「どこから?」「うちの系列の丸川映画から。今からそちらに向かいます!」
 結婚し主婦になった美羽は、私を心配してか毎月のように顔を出してくれる。調教の相談も時々あるが、夫婦仲も良く上手くいっているようだ。たまに一緒に風呂に浸かっているのは、旦那にちょっと申し訳ない気分だ。

 小説を映画化するというのは実は非常に難しく、提案があってから実際に映画の制作に取りかかれるのは一割程度らしい。一番難しいのはやはり、スポンサーの確保で、次に俳優や制作陣の確保だ。
 話が上がったところで、映画化などは夢のような話。いいとこ、ネット限定の映画かドラマあたりだろう。
全く期待をせずに半分忘れかけてもいた。
 
 店の扉が開いて小走りに美羽が駆け寄って来た。「先生!これこれ!」「おいおい、まだお客様いるんだぞ。」手渡された企画書と概要に目を通す。監督にはバイオレンス作やサスペンス作でヒットを飛ばす若手監督、プロデューサーにはカメラマンでもある女性演出家の名前が記されてあった。
 ストーリーはほぼ原作通りだが通常のR18指定の為、過激なシーンは上手く置き換えられている。出会いから調教し始めるところまでが中心で、調教シーンは20分ほど。時間は二時間の予定だ。
 小説の中では『熱帯魚の躾方』のプロローグから露出プレイまでだ。後の部分はどうするのだろう?

 スタッフ欄を見るとエグゼクティブプロデューサーとして私の名前『T』が入っている。
「えっ?何で私の名前が?」「監督が『熱帯魚の躾方』の大ファンというか先生の大ファンになっちゃって。出来る限りリアルに近づけたいけど、SMプレイとかしたことないから、先生に御指導頂きたいって。」「私は映画とかわかんないよ!」「大丈夫ですよ!ほら私も入ってます。」助監督三名の中に美羽の名前がある。丸川書店特別派遣と但し書きまで入っていた。
「それとロケにこのお店を使いたいって。」「そんなことしたら、Tが私だとバレないか?」「店内しか映りませんから大丈夫ですよ!店名も実際と違うし。」
 後日、主要スタッフを集めての製作打ち合わせに参加することになった。

 打ち合わせの会場は丸川書店の大会議室が使われた。話の中心は理沙役(小説では沙莉を理沙に変更している。)の女優の抜擢が焦点となっていた。私が記者会見で挙げた女優と出演交渉しているが、注文が多く暗礁に乗り上げている。
 数十人の女優のプロフィールには、有名女優からグラビアアイドルまで入っていたが、理沙をイメージ出来るものは私には居なかった。
「一般も入れてオーディションしてみたら如何でしょうか?それも公開オーディションにして、メイキング編としてDVDの中に入れてみれば?」「結花ちゃん、それ面白いよ!」女性演出家比留川結花の意見に監督団音遠|団音遠《だんねおん》が賛同する。
「監督!クランクインまで時間が無いですよ!スポンサーに承諾を得ないと。」「いや、それで行こう!スポンサーは後回しだ!」

 オーディションの日程と段取りの話に変わった。監督のスマホが鳴る。「ちょっと外すよ!」二分後に席に戻って来た。
「うーん。」腕組みをして考えている。「な〜に団ちゃん?」女性演出家比留川結花が天井を見上げる監督団音遠を見つめる。
「うん。いいか…。実はな、ある女優から逆オファーが来てる。」「えっ、誰?」全員がざわつく。「言えないというか、オーディションがあればそこから参加するから名前は伏せてくれと…。ああ、それと先生、オーディションは貴方の意見を中心にしてやりたいから、来てくださいね。」「女優なのに名前を伏せてって…。誰?」比留川結花が喰い下がるが、団音遠は軽くあしらった。

 まさか、こんな映画に出演したがる女優なんて一体誰なんだろう。監督が個別にオファーをかけていたということはあのリストには載っていないだろうし…。気になって悶々としながら仕事をこなしている。
 二次選考までは書類審査とリモートのみで、最終選考の時にその女優は来るという。かなり特別な対応だと思う。編集長も美羽も知らないという。
 
 前日の制作打ち合わせから比留川結花から個人的に会いたいと言われ、都内のレストランでランチをご一緒することになった。父親がたくさんの名優を育て上げた大演出家比留川辰夫で、その娘である結花も才能に溢れている。

「ごめんなさい。遅れてしまって。」テーブルに座る前に深く頭を下げる結花。「私も今来たばかりで…。どうぞ。」立って着席を促した。
 面長が顔立ちで大きな目と通った鼻筋が何処かクールさを感じる。
 東洋的な柄のシルクワンピースの深いスリットから長い脚を組んで座る。
 こんな有名人に呼び出されて、高級レストランの個室で何の話かと思う。
「ワインお好きでしたわね。お呑みになる?」私の返事を待たずに結花はソムリエにシャンパーニュをオーダーする。
 アミューズをつまみながら、他愛ない映画や写真家の話から始まった。クールビューティーなルックスと裏腹に大きく口を開けてよく笑いよく喋る。


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