ロスト・ヴァージン@-2
十一月に入って十日が過ぎた。土曜日の夜九時すぎにレイのケータイに電話があった。中屋潤也からだ。レイは自室にいた。中屋は荻窪東高校の三年生だ。
「レイちゃん、久しぶり」
「なんの御用でしょうか?」
「そんな冷たい声を出すなよ。おれはレイちゃんに好意を持っているんだ」
「中屋くんは、未来乃(みきの)とつき合っているのでしょう?」
「うん。つき合っている。だけどレイちゃんのことが気になって」
潤也は何を言いたいのだろう?
「レイちゃん、中学の教師とつき合っているってほんとうなの?」
「中屋くんに関係ないでしょう?」
「いや、知りたいんだ。もう一発したのか?」
「一発ってなに?」
「教師とセックスしたのか?」
潤也は頭のネジが飛んでいるのか?
「電話きります」
「待てよ。おれは未来乃と三回セックスしたよ。みっきーは優しい。結合するとき、上になってくれたり。それに、セックスが終わってコンドームを抜いたあと、まだ勃起しているペニスを口に含んで、味わってくれたり。すごいよ」
潤也の口調に迫真性を感じた。
「もう電話きります」
レイは通話をoffにした。中屋から電話がかかってきたとき、レイは英語の予習をしていた。フリル付きの白いブラウス、黒のフレアーミニスカートという服装であった。
レイは立ち上がり、スカートを捲り上げた。机の角にショーツのクロッチのところを押し付ける。
「あっ、ああ」吐息が洩れる。こんなことしちゃいけないと思いながらも、腰を動かしてしまっていた。三原レイ、はじめてのオナニーだった。
高円寺駅から荻窪駅までの中央線の電車内で、多くの男性の目を惹き付けている三原レイ。
可愛い女の子だと誰もが思うだろう。しかし、レイがオナニーをする姿を想像する男性は皆無であった。レイはそれほどに可愛かったのだ。
「舵を取れこなたへ、翼広げたマスト持つ船の舵を、疲れ果てた水夫よ」
ホンダ・インテグラの車中で渡部紀夫はつぶやいた。
「紀夫さん、いまのは?」
「イギリス文学。『灯台へ』のなかに出てくる一節だ。誰かの詩だったかな?」
「そうなんですね」
十一月十二日の日曜日。夕方。レイは渡部の愛車の助手席に乗って、神田神保町の『はちまき』に向かっていた。はちまきは穴子海老天丼で有名な店だ。渡部のマンションの部屋には、レイが持参したピンク色のベビードールが置いてある。スリップタイプのベビードールだ。天丼を食べてマンションに帰ったら、渡部紀夫に、処女を捧げようとレイは決意していた。
神保町『はちまき』の穴子海老天丼は美味しかった。この世界にこんなに美味しい料理があったのかと、レイは感動していた。はちまきを出たとき七時十五分だった。
「レイちゃん、きょうはゆっくりしていくだろう?」渡部はインテグラを運転しながら言う。
「ええ」
渡部に抱いてほしい。レイは渡部を求めていたが、その気持ちを言葉にすることはできなかった。