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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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星彩 ……… 第二の物語-6

三十八歳になったとき、勤めていた会社の取引先の社長に夫を勧められ、お見合いをして結婚した。そのときの夫はすでに五十歳半ばを過ぎていた。物腰の柔らかい優男だった。夫がわたしを愛していたとも、わたしが彼を愛していたとも言えない。そんなことを考えることなく夫婦として五年間をいっしょに過ごした、似合いの夫婦だとまわりは言った。でも夫は男性器において不能だった。そのことを夫はずっと隠していた。そしてわたしが夫の風変わりな性欲を充たすためだけの女だということに気がつくのに時間はかからなかった。
夫は、わたしがひとりでお風呂に入ることをゆるさなかった、夫は必ずわたしの衣服と下着を彼自身の手で脱がせ、わたしの身体の隅々まで、彼自身の手で石鹸の泡をたて、洗い流し、さらに肌に吸いついた水滴のひと粒も残さず、陰毛の毛穴の湿り気まで、彼自身の手で愛撫するようにタオルでふきとった。
さらに夫はわたしが自分の身体に手をいれることまでゆるさなかった。髪をとかすことも、爪を切ることも、口紅をぬることも、あたしは人形のようにただ彼の《奉仕》を受け入れるだけだった。夫にとって奉仕こそが、わたしに対する性欲にほかならなかった。もちろん、わたしのハイヒールを磨くことも、わたしの足首をストッキングで包むことも、そして足首に接吻することも。ただ、不能の夫はわたしを一度として抱くことはなかった。
そしてあの日、夫は交通事故に遭い、意識が戻らないまま病院で寝たきりの状態になった。わたしはそのとき初めて夫の性器に触れた。下半身は麻痺していた。萎えきったペニスは深い眠りに堕ちたようにわたしの掌の中で小さく縮んでいた。わたしは夫のペニスを口に含んだ。柔らかいものが舌の上で蕩けるようにゆるんだ。その嘲〈あざけ〉るような感覚は、まるでわたしを逃げ場のない檻の中に封印しようとしているような気がした。そのときわたしは、夫がわたしを充たすことはこれから先、ずっとないことに気がついた。
一年後、夫は帰らぬ人となった。

その写真を見つけたのは、夫が亡くなって半年後だった。夫の蔵書の中に挟んであった一枚の写真。それはわたしがサディストの男に縛られた写真だった。写真の裏側には文字が書かれてあった。
――― ご結婚のお祝いにこの写真を送ります。奥様の秘密に触れて楽しんでください……。

写真を手にしたわたしの手が震えた。夫は知っていたのだ……わたしの心と体に刻みつけられた秘密を。そしてその秘密に触れることだけに欲情をいだいていた。サディストの男の視線を含んだわたしの体の奥にある秘密の記憶に。まるでわたしが《そういう女であること》を確かめようとするかのように。



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