星彩 ……… 第二の物語-18
不意にマンションの屋上に人影が見えたような気がした、もしかしたら……と、あの男の子がわたしを見ている……そう思ったとき、わたしは彼を無理やり意識しようとして縛られた体をよじり、悶え、のけ反り、喘ぐ。
そのとき含んだ老人のものが小刻みに震え始める。わたしの肉襞の収縮が烈しくなり、老人の肉幹を強く絞める。老人は腰をがくがくと震わせ、烈しくのけ反り、骨の浮き出た咽喉元から絞り出すように咆哮を上げた。
老人は粘りのない精液をわたしの中に垂れ流し始める。生あたたかい液が肉洞の奥を汚すように滲み入ってくる。それはわたしの肉体の彩(いろ)と記憶を奪い、襞を削ぎ、腐敗させていく。それなのにわたしは、まるでわたしに注がれた男の子の視線を吸い込むように高みに達した………。
老人が病に倒れ、入院し、わたしと老人との関係は途切れた。
その三か月後の夜、わたしは老人の家の前に立ち、何度なく暗いマンションを見上げた。彼の視線をマンションの屋上から意識することはできなかった。彼はいなくなったのかもしれない。いや、ほんとうにそこにいたのかどうかさえわからない。もしかしたらわたしと老人の情事の光景を見ることができなくなったためかもしれないとも思った。
人影も、気配も、あの視線も、すべてが暗闇に消え去っていた。わたしは、もどかしい焦燥にかられながら彼の視線の気配だけを求めていた。あの男の子の視線にわたしは捨てられた……なぜかそう思った。そう思うと身体の中を寂しい風が吹き抜けていくのを感じた。
夕暮れどき、わたしはあのマンションの屋上に行ってみた。網のフェンスで囲まれた殺風景な物干し場所の屋上からは微かに灯り始めた街の灯りが見え、老人の部屋が見下ろせた。肉眼では、遠すぎてはっきりと部屋の中までは見ることはできない、そう思ったとき、黒ずんだコンクリートの床に転がっていたもの、それは小型の筒になった、片手でにぎれるような望遠鏡だった。
記憶のどこかにある色褪せた望遠鏡だった。まちがいなかった……あの男の子か遠い昔、手にしていた望遠鏡だった。
望遠鏡では部屋の中がはっきりと見ることができた、とても鮮明に。そしてわたしの姿はこの望遠鏡をとおして彼の瞳の中に映っていた………彼は、わたしが思っていたとおり、いつもここでわたしのことを見ていたにちがいなかった。
でも、どうしてこの望遠鏡を置き忘れたまま彼はいなくなったのだろうか。