投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

アンソロジー(三つの物語)の最初へ アンソロジー(三つの物語) 26 アンソロジー(三つの物語) 28 アンソロジー(三つの物語)の最後へ

星彩 ……… 第二の物語-15


高校の卒業式の前日、わたしと彼は黄昏の浜辺にいた、夕闇がせまり、紫色の空には星が煌めきはじめていた。海から吹いてくる風がわずかにスカートの裾をなびかせていた。
わたしは、地元の百貨店に就職が決まり、彼は天文学を勉強するために東京の有名な大学に進学することになっていた。わたしは、テンモンガクがどういうものなのか知らなかった、宇宙の勉強をするためなのかしらと言ったわたしに、彼はにっこり笑って言った。
宇宙の先にある、きみをもっと深く勉強するためさ、と冗談まじりに言いながら視線を夜空に向けた。
わたしは、あの星空の向こう側にあるってことなのね。わたしはその意味をよく理解できなかったが、素直にそう言えたことがうれしかった。
きみが、宇宙の向こう側にいるからぼくは、きみのことをもっと好きになれるかもしれない。
 ふたりを夕闇がベールのように包んでいく。わたしは夜空を見つめる彼の視線がとても欲しかった。そんな気持ちをくすぐるように打ち寄せる波の音が心の奥に吸い込まれていった。
彼は卒業してからもわたしに手紙をくれた。東京に来ませんかと手紙が何通も届いたが、返事を書くこともなく、やがて手紙は途絶えた、それがいつ頃だったかは憶えていない。
そして彼の記憶はわたしの中から消えていた。


久しぶりに化粧をする。パートの仕事に行くときは何気なく化粧をするが、忘れることもあり、別に素面でも気にすることがない女に、いつのまにかなったことにさえ気がつかなかった。目のまわりに小じわが寄り、ひっそりとした染みが滲み、あごが微かにたるみ、いつのまにかわたしのものでないような唇だけがいやらしく薄く開いている。それは夢のなかで感じる唇ではなく、老人のペニスを咥えた淫らな唇だった。
わたしの化粧の理由ははっきりしている、あの男の子がわたしの姿を屋上から見ているかもしれないという密かな願望があるからだ。わたしは、老人に縛られた体をいじられながら、あの男の子の視線をほんとうの自分の内側に感じることができたような気がした。老人とこうならなければ、あの男の子の視線に出会うことはできなかったかもしれない。
男の子の視線はわたしを愛おしく愛撫しながら深くわたしの中に滲み入ってくる。彼の瑞々しい視線に晒されながら老人に抱かれていることに、ふと遠くなった自分を感じ、切なさをいだいた。わたしはもうあの頃の自分には戻れない……それなのにありえない現実を夢見ようとしている。



アンソロジー(三つの物語)の最初へ アンソロジー(三つの物語) 26 アンソロジー(三つの物語) 28 アンソロジー(三つの物語)の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前