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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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星彩 ……… 第二の物語-14

彼が、いつの間にどこから現われたのかわからない。白い肌をした彼が裸でわたしの前に立っていた。それはわたしの中にある記憶の朧(おぼろ)な像としての少年の彼だった。像はしだいに透けていく。透けた先に星空が見えた。それはわたしのまぶたの向こう側に映っている。彼の輪郭がしだいに星空の無数の光にまぶされていく。
わたしは自分の唇に記憶の中にあるそよいだ風を感じた。わたしは彼の背筋に、胸部に、下腹に、そして白い腿のあいだに唇を這わせていたのかもしれない。まぶたの裏に彼の肉体の、とても美しく、甘美なものを感じる。わたしは唇のすき間を抱きしめるように《彼の中に描かれないペニスらしきもの》に頬を寄せた。唇で触れたものはとても堅かったかもしれない。堅いのか、柔らかいのかわからない不思議な感覚だった。唇に含んだ彼のペニスらしいものは愛しい微熱を含み、わたしの舌に真珠色の光をまぶすように波うつ。
彼のものの輪郭から広がる瑞々しい光は、星空という海のきらきらと光る水面を見ているようで、しだいにその光はわたしの瞼と唇をゆるませてくる。それはわたしが彼といっしょに見た星空かもしれない。
どこかでわたしの遠い時間の流れにぽっかりと穴が空き、止った時間を感じる。それはあの男の子と出会った十七歳のときのわたしだったのか、今のわたしなのかわからない。暗闇の中に彩られた星の光はわたしの体をどんどん吸い込んでいく………。


ふとわたしは目を覚ます。いつのまにか寝込んでいたらしい。やはりあの男の子の夢を見た。老人と関係をもった夜は必ず彼の夢を見るようになった。
窓から見える黎明の空に淡い雲の筋がのびていた。そこにひときわ煌めいている星が見えた。それはまるで彼の瞳の瞬きのように思えた。彼をとても近く感じた。手を伸ばせば、すぐに触れることができるような気がした。その彼の像が夢の中で想い描いた彼の肉体と重なったとき、わたしは彼をとても欲しいと思った。それはこれまでわたしが交わったどんな男よりも心恋しいものであることに気がついた。
老人の家の向かいのマンションの屋上から望遠鏡でわたしを見ていた男の子は、やはりあのときの彼かもしれない。だとしても彼はあのときの十七歳でない。でも実際にありえないことが現実ように思えた。
記憶の限りでは、あのときの十七歳の彼であるような気がする。でもわたしは彼の顔をはっきりとは憶えていない。彼からの突然の告白を受け入れ、初めてのキスをゆるしたというのに。ただ、彼の瞳の中の視線だけを感じ、彼に見つめられることがわたしに彼のキスを受け入れさせたと、今でもそう思っているような気がする。
マンションから注がれる視線と、あのときの彼の視線が不思議に重なり、見たこともない遠い記憶を揺らがす。老人に淫靡に体を舐めまわされていたとき、注がれるあの男の子の視線にわたしは閉ざされるように寡黙になり、自分のぞっとするような、わたしが知らない自分の淫らさに気がついていた………。



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