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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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星彩 ……… 第二の物語-10

部屋の静寂にわたしだけの嗚咽が染み入るように漂っている。老人の指だけを感じるわたしがそこにいる。自分がとても遠い場所に引きずり出されたような気がした。そのときふとわたしは、自分をもっともっと汚して、狂おしく淫らにして欲しいと思った。どこまでも終わりなく心と体を砕いて欲しいと………。


 老人の部屋から見上げる廃屋のようなマンションからはこの部屋が見下ろせる。庭にある鬱蒼とした樹木が建物の風景を斑に遮っている。建物は近々取り壊される予定の建物だという。
夜の漆黒の暗闇に黒い影として浮かんだマンションの部屋には誰も住んでいないのか、いつもどの部屋の明りも灯ってはいなかった。おそらく誰かがいればこの部屋のあたしと老翁の姿は覗かれているかもしれないと思うことさえある。
 近所の噂では、最近、このマンションから飛び降り自殺をした男性がいたそうだったが、ニュースになったわけでもなく、いつ、どんな風に事件が起こったのかわたしは知らない。
そのとき不意に屋上で何かが光ったような気がした、誰かがこちらを見ているような気配を感じた。わたしと老人の行為をなでるように注がれてくる視線……次の瞬間、光は消えていた。気のせいかもしれなかったが、確かにマンションの屋上に誰かがいた。
窓を閉めて欲しいわ、とわたしは老人に向って言った。
「窓を閉めると、思いのままにあなたは声をあげることができるっていうことでしょうか。あたしは、わざと窓を開けています。なぜかわかりますか。あなたに声を出させないためですよ。あなたが喘ぎに耐える顔をあたしは楽しみたいので」と、老人は意地悪く言った。
 わたしはその言葉に対して何も答えなかった。その理由は一瞬だけ感じたマンションの屋上からの視線の気配をもっと体に感じたかったからかもしれない。

廃屋のマンションの屋上から見ていた視線。あの男の子だったような気がした。なぜそう思ったのか自分でもわからなかった。遠い、とても遠い記憶にあるあの男の子の視線の感覚。でもそんなことはありえない。彼は、わたしが十七歳のときの出会った男の子なのだから。それでもそう思う自分がいた。もし彼であるとすれば……そう思ったとき、彼のうしろ姿があたしの瞳の中をよぎり、一瞬のあいだにわたしの目の前から消えていた。
わたしは老人に体をいじられながら、開け放された窓からじっと目の前のマンションの屋上に視線を注いでいた。でも廃屋のようなマンションの部屋のどこにも灯りはともっていない、屋上に目をやるが人影は見あたらなかった。

 
老人ら解放され、家に戻った夜、わたしは老人の指の余韻を体の奥に残したまま泥のように深い眠りに堕ちた。夢を見ていたような気がしたがはっきりわからない。



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