レイちゃんは生理中-1
十月二十三日。放課後。三原レイは教室のまえの廊下で三宅勝徳・教諭に呼び止められた。
「三原さん、今から相談室に来てくれないか」
「何かありました?」
「うん。ちょっと話があるんだ」
「わたし、部活があるんです」
三宅は、大した話ではない、五分で済むから、と言ったが、なんとなく威圧的な眼をしていた。
生徒たちのあいだでは、三宅教諭は人間的に出来ていないと噂が立っていた。気に入った女子生徒を付け回したことがあるらしい。気に入った女子生徒の庭に忍び込んで、下着泥棒をはたらいたことがあるらしい。三宅に関して出てくるのは、よくない話ばかりだ。
気をつけなければいけないと、レイは疑った。
昨夜は愛しき渡部紀夫に愛撫された。でもそのことを三宅が知っているわけはないのだ。
レイは三宅の後を歩き出す。
振り返ると、菊田未来乃が心配そうな表情でこちらを見ていた。
三宅に続いて相談室に入った。何を言ってくるのか? 三宅が座った前の椅子に腰掛けた。
二人のあいだには古ぼけた机がある。
「三原さん、ぼくはゆうべ見たんだ。きみと三十歳くらいの男性がファミマに入ってきた。男性はきみにショーツを買ってあげていた。あの男性は誰だ? なぜ、きみのためにショーツを買うんだ? 答えなさい」
「答えたくありません」
レイは赤面しながらも憮然とした態度で応じてきた。三宅の腹の中、怒りが急激に沸き上がってきた。
「ぼくを舐めているのか! 生活指導を担当している教師として責任があるんだ。答えなさい!」
レイは、三宅が激怒したことによって、恐怖を感じ始めた。それと同時に、怒りは筋違いだとも思った。学校外で誰と交際しようが、三宅には関係がない。なぜ、怒りに唇を震わせているのか。
レイは立ち上がり、「失礼します」と去り際の捨てぜりふを吐いた。だが、ドアへの道は三宅に塞がれた。眼が笑っている。怖い。
「レイ、好きなんだ!」三宅は抱きついてきた。紺色の制服ごと抱きしめられる。こんなことされるなんて。レイは愕然としてしまい、抵抗することができない。
レイは頬ずりされた。中年男の頬はざらざらしていた。
「これを夢見ていたんだ!」
「やめて!」
「静かに、静かにしなさい。可愛いからね」
レイは三宅から逃れようと踠いたが、ますます力を込めて抱きしめてようとしてきた。三宅の唇は、ちっちゃな唇に吸いつこうとする。レイは顔を捻って逃げる。
「キスさせてくれ!」
「誰か!」レイは大きな声を出した。
「おれにも触らせろ」
紺色のプリーツスカートの中に手を差し入れてきた。手は、ストッキング越しに少女の恥部をまさぐる。「マンコ、いい感じ」
「たすけて! 誰か!」レイは叫んだ。
「ちょ、ちょっと」三宅はあわてた。プリーツスカートの中から手を抜く。
抱きしめられていた力が弱まったので、三宅の身体をどんと突いてから走り、相談室の外に飛び出す。
「待ちなさい!」
三宅はレイを追う。
相談室の外には、境屋ゆり子(新体操部・監督)が待ち構えていた。ゆり子の後ろに逃れているのは、三原レイ。レイの横には菊田未来乃がいた。
「おい三宅! あなた何をした!」
ゆり子は憤怒の表情だ。三宅は圧倒される。怒りに飲み込まれそうになった。