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熱帯魚の躾方
【SM 官能小説】

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小説-2

「御主人様って、ほんと素直じゃないんだから…。ちょっとだけ目を瞑ってください。」美羽の両手が顔を包む。瞼から眉毛、頬から顎、首から肩へとマッサージするように優しい指が滑っていく。美羽が沙莉のように跨がって来た。「おい、ちょっと!やめなさい!」「嫌です!」頭を胸元に抱きしめられた。「おい!美羽!」「いいから、黙って!」美羽の優しさが流れ込んでくる。背中に両手が回り鼻が触れそうな距離で見つめあった。
「御主人様、ずっと淋しそうなんだもん。私はお姉ちゃんの妹だから、お姉ちゃんが癒やしてあげられないなら、私が代わりに癒やします。」「美羽!」「何も言わないで!」柔らかな乳房から体温が混じり合って、一つになっていくようだ。美羽に抱きしめられていると性的な興奮から、母親に抱かれているような温もりに変わっていく。
「熱うっ、もう限界。」美羽が立ち上がった。顔の前に彼女の股間がある。「御主人様のお好きなようにしてください。」「ありがとう!その気持ちだけで十分だ。俺も上がるよ。」
 美羽は泊まらずに優しい笑顔だけ残して帰って行った。

  ボーっとしながら、一ヶ月を過ごしていた。沙莉のことも美羽のことも熱帯魚の世話をしている時は頭から離しておける。夏希が留学で旅立った時のように何をしてもぼんやりとした感じで、ただ時間だけが過ぎていく。
 眠気に吸い込まれそうな昼下がりにスマホが鳴った。「先生〜!大変!大変ですぅ!」沙莉に何かあったのかと慌てた。「大変って?どうした?」「ま、ま、正樹賞受賞です!『熱帯魚の躾方』が正樹賞受賞ですよ!」「えーっ?嘘だろ?ハハハ、ドッキリか?」「違いますよ!ほんとですって!」電話が編集長と代わった。「菰田先生、いやT先生、正樹賞受賞おめでとうございます。受賞式が来週の金曜日の十五時からとなりますがご都合如何でしょうか?その後、祝賀会となります。」スマホを持つ手と膝が震えた。

「今から伺っていいですか?」夜の十九時に美羽からLINUが入った。家に着いた美羽とリビングで鍋を食べながら打ち合わせをする。
「呑んでもいいのか?」「今日は泊まって帰ります。明日休みだし。」「彼氏が心配するだろう?」「嫉妬も調教のうちですよ!先生だって私を利用したでしょ。」「沙莉の嫉妬心を煽るつもりだったけど、しっかり失敗したな。ハハハ…。」「だってお姉ちゃん、綺麗過ぎるし、優しすぎるから。」「彼氏は大丈夫なのか?」「彼にとって私は女王様で、先生はその女王が仕える大王様ですから、大丈夫ですよ!」「お前も小説書いてみたらどうだ?」「私は推理作家になりたいんで、変な色が着いたら困ります。」「SMプレイ殺人事件とか、とある官能小説家の死とかはどうだ?」「あっハハハ…。書かないですよ!」
 美羽との打ち合わせで、私は『菰田達哉』ではなくペンネームの謎の官能小説家『T』という別人物で受賞式に参加することになった。帽子とサングラス、髭をトレードマークにして、服装はスーツに黒いシャツにノーネクタイ。ちょっとやり過ぎじゃないのかと思ったが、インパクトが強いほうがいいからと勧められて、美羽に任せることにした。

 当日、会場のホテルのロビーで美羽と編集長、三人で簡単な打ち合わせをする。記者会見も含めた受賞式なので、プライベートな質問に関しては私に判断を委ねることになった。また初めての受賞ということもあり、特例として美羽も隣に座るが、これは美羽を美人編集者として売り込みたいという流れでもあるのだろう。

 舞台上手から席へと向かう足が緊張で震える。まるで、夢でも見ているかのようだ。
 司会はどこかで見たことのある男性とアシスタントに女優っぽい女性が付いている。並びの席には瀬戸川賞受賞の若い女性作家が堂々と座っている。目があって会釈をした。

 アシスタントの女性から挨拶が入った。「まずは瀬戸川賞受賞の作家鱒渕常葉さん、正樹賞受賞の作家Tさん、受賞おめでとうございます。」
 女性作家のコメントの後、私のコメントとなった。「まずは、このような異色の作品を夜に送り出してくれた編集長永田さんと編集担当鶴賀美羽さんに、そして本を手にして頂いた読者の方々に深く御礼を申し上げます。」立ち上がり美羽と深く礼をした。受賞の盾と花束を受け取り司会者に続いてアシスタントの女性と握手をした。

記者会見が始まった。「作家Tさんに質問したいのですが、答えられる範囲でプライベートを教えてください。」私がどこの誰か特定したい内容だったが美羽がフォローして、全て不詳にしてしまった。
「今回の受賞作品『熱帯魚の躾方』は本当は実話じゃないですか?」「皆様のご想像にお任せします。」会場がどよめいた。相手の女性についての質問は答えなかった。
「小説の内容からするとTさんはサディストということですか?」これには美羽が答えた。「SMという行為が特殊であることには間違いありませんが、誰もが違った類いでフェチズムやアブノーマルな性癖を持っているでしょう。でも、それの願望を体現出来る方は一握りしかいないと思います。それを体現出来る方は非常に勇気のある方で、尊敬されるべき人間だと考えていいのではないでしょうか?」

 女性記者からの質問が対応に気を遣う。「まずは受賞おめでとうございます。Tさんの『熱帯魚の躾方』を拝読させて頂きました。」「ありがとうございます。」「正直、本屋さんで購入する時にドキドキしました。露出プレイの羞恥心みたいな感じでしょうか?」会場が笑いに湧いた。「SMプレイの内容にドキドキしましたが、同時に主従関係を通して二人の愛が成長し深く根を生やしていくようで、感動を覚えました。このモデルになった女性とは今もお付き合いされていますか?」「それは、残念ながら…。」「それは残念です。今後、復縁することはないですか?私はこの物語の続があればとても読みたい。因みに二回読みました。」


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