崩れた均衡@二人の男からの愛撫-3
「あたし、シャワー浴びてきちゃうね」
人の布団に、体を洗わないまま潜り込むのに抵抗があるため、髪の毛は洗わずとも、シャワーを浴びるのがここでの習慣になっていた。
蓋の閉じた洗濯機の上には、清香がいつも貸してくれるTシャツとハーフパンツ、バスタオルが置いてある。
まるで親戚が泊まりにきたときのように、清香は優しい。
はじめ、男性がいる空間でシャワーを浴びることに抵抗があったが、今では平気になっていた。
メイクを落とし、シャワーを浴びたあと、自ら持ってきた下着と清香の部屋着に着替える。
脱衣所から出て部屋に戻ると、明かりはつけられたままだったが、拓真は寝息を立てていた。
(そのまま、寝ちゃったのね)
ふふっ、と由美香は笑って、部屋の明かりを消すために、リモコンを探す。
辺りを見回すと、翔の頭の付近ーーつまりカウチの上に、無造作に置かれていた。
かがんで、リモコンを取り、部屋の明かりを消す。
リモコンをカウチの上に置こうとした時、ぐっ、と腕を引っ張られた。
「あっ」
短い声を上げる。
普段は大人しい翔に抱きしめられていたのだった。
由美香は翔と向き合い、ソファーの右側に座るような体勢になっている。
由美香は驚いたが、八つも年下の彼が何かをしようとするなど毛頭思わず、背中に手を回してぽんぽん、と軽く叩いた。
「どうしたの」
由美香は翔よりも、背が高い。
由美香にとって童顔で、小柄な翔は、教職員とはいえ、高校生みたいなものだった。
「何で……別れちゃったんですか」
小さな声で、翔が呟く。
「何で、って言われても……ねえ? あたしが向こうにとって、いい女じゃなかっただけでしょ。そんなに傷ついてないよ。でも、慰めてくれてるの?」
「瀧岡先生……」
翔の手が背中を滑る。
そしてソファの背もたれに背中を押し付けるように、翔は由美香の体に体重をかけた。
「僕で、慰められるんですか」
「え……っ」
翔の唇が、由美香の唇に軽く触れる。
さらに何度か、とても控えめに唇が触れた。
「先生の、唇……やらかい」
その正直な感想に、エアコンで冷えた部屋の中なのに、由美香は恥ずかしくなり顔を熱くさせる。
「もっと」
我慢できなさそうに、翔は息を吐き出した。
腰を抱きとめ、体を押さえつける力は、細いとはいえ男性のものだ。
抵抗して押し返そうとしたが、いとも簡単に唇が触れる。
触れるだけだった唇は、由美香の唇を食むような動きになっていく。
「ん、ふ……ぅ」
密着する唇の隙間から、由美香の吐息が漏れる。
後輩の突然の行動に、由美香はどうしていいかわからなかった。
そして、にゅるん、と舌が差し込まれる。
「ん、んぅ……!」
くぐもった由美香の、さすがに抵抗の声が漏れる。
キスに慣れていなさそうな、焦った舌使いだった。