なれそめ-1
ボクは大学四年生の男で二十一歳。ちょっとした伝手から家庭教師を引き受けて、この三月まで中学三年生の女の子の受験勉強を手伝っていました。女の子の名前はK子ちゃん。K子ちゃんはめきめき学力を上げて、はじめ希望していた学校よりも難しい△△学園に合格することができました。
K子ちゃんの勉強を見始めたのはまだ夏の頃でした。定食屋で見たテレビのニュースが例年にない猛暑を伝えていたのを覚えています。アパートのボクの部屋にはクーラーなどあるはずもなく、中学生の子供の家庭教師を頼むような家にはクーラーぐらいあるだろうという下心もありました。
案の定、K子ちゃんの家にはクーラーがついていて、冷房の効いたK子ちゃんの家に行ってうだるような暑さから逃れられるのが有難かったです。
K子ちゃんの勉強部屋に陣取ると、K子ちゃんのお母さんが運んでくれた冷たい麦茶で喉を潤しながら、涼風を浴びて文明の利器の有難みを体感します。
ボクは机に向かっているK子ちゃんの斜め後ろに椅子を置いて座っています。K子ちゃんはそこそこかわいく…かわいいと美人の中間くらいとでも言ったらいいでしょうか…。
中学生だからまだまだ子供ですが、薄手のシャツの背中に浮き出るブラジャーのラインが妙になまめかしく感じられます。
汗も退いて生きた心地を取り戻すと心にも余裕が生まれボクは部屋を見渡します。K子ちゃんのベッドに目を遣りながら、ひとしきり妄想に耽ります。
(中学校三年生か…。中三と言えばボクは毎晩オナニーに耽っていたものだった。女の子の生態は大して知らないけれど、女子は身体の発育が早いからK子ちゃんももうオナニーぐらいはしているのかな…)
K子ちゃんが問題に取り組んでいる間、そんな邪推ばかりしていたボクでしたが、とにかくもK子ちゃんの家ではK子ちゃんを難関校への合格に導いた功労者ということになっています。
K子ちゃんが合格してしばらくして、ボクは最後の月謝を受け取りにK子ちゃんの家を訪ねました。K子ちゃんのお母さんがお茶とケーキを出してくれます。紅茶を飲みながらお母さんと話をしています。
「先生のおかげで△△学園にまで合格させていただいて、本当によかったと思っています」
「めきめき学力も上がっていったので教え甲斐がありました。K子ちゃんが真面目に頑張ったからですよ」
今日はK子ちゃんは友達と遊園地に遊びに行っているそうで不在でした。リビングにはいつもきれいな花が活けてあります。
「△△学園に受かったのはよかったですね。最初の志望校より、通学も楽でしょうし」
「あまり自由な時間ができてしまうのもよくないと思っているんです。一生懸命勉強していた分、変に時間ができたらだらけてしまうような気がして…」
お母さんは整った顔立ちを少し曇らせてK子ちゃんのことを心配しています。真面目なK子ちゃんを育てた母親だけあって、やはり真面目な性格なのでしょう。K子ちゃんの部屋にあることわざ辞典に載っている『勝って兜の緒を締めよ』とか『小人閑居して不善をなす』という諺を思い出させます。
「先生もそうお思いになりません? 心配し過ぎかしら…」
「K子ちゃんは決して遊び惚けたりはしないと思いますよ」
「そうだといいのですけど…」
気休めを言っているボクですが、大学に合格したときにはしっかり遊び惚けました。爺ちゃんにもらったご祝儀で悪友とトルコ風呂に行きました。ボクもそこそこ真面目だった分、トルコ嬢のお姉さんに童貞を捧げてからというもの、すっかりそういう世界にはまってしまい、バイトで稼いではトルコ風呂で散財して…のようなことを繰り返していました。
高校受験のときのことは正直なところあまり覚えていませんけれど、勉強の合間には押し入れに隠していたエロ本を持ち出してはオナニーに耽っていたような気がします。真面目な母娘に感化されたような気がして、ボクはお母さんの心配を神妙に聞いています。
「K子ちゃんに限っておっしゃるような心配は要らないと思いますが…。高校でも一生懸命勉強するんじゃないですか? なにせ真面目ですから」
「真面目な分だけ反動が来たらいけないでしょ…。△△学園に運よく入れたのはいいけれど周りはみんなできる子ばっかりでしょうし…」
K子ちゃんが時間を持て余して不善をなすようには思えませんけれど、ボクも強く否定できる資格はありません。
「それで、高校に入っても先生にお勉強見ていただけないかと思っているのですけど…」
お母さんは困ったような笑顔を浮かべながらボクの返事を待っているようです。ボクは予想外のことにしばし沈黙してしまいました。沈黙を破るようにお母さんが口を開きます。