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ボクとK子ちゃんとお母さんの物語
【その他 官能小説】

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なれそめ-2

 「あまりわがままばかり申し上げてもいけませんね…。先生もいよいよ論文を仕上げないといけないのですものね?」

 大学では何をしているのかと問われたときに『論文の作成に取り組んでいます』などと大袈裟に答えたのをお母さんは覚えていたようです。論文といってもいわゆる卒業論文というやつで、提出しない限り卒業も出来ないというだけの話なのですが。

 「あまり無理をお願いしてもご迷惑でしょうし…これ、お月謝です」

 お母さんが封筒をボクに渡します。封筒の厚さがいつもと違うような気がします。

 「ありがとうございます…あれ? なんだかお月謝随分弾んでくれてないですか…?」
 「いえ、いいんですよ…ほんの気持ちだけ入れさせていただきました。K子のこと、すごくよく面倒を見ていただいて本当にありがとうございました」

 妙にかしこまってお礼を言うお母さんがかわいらしく見えます。

 「K子ちゃんが頑張っただけですよ」
 「男の方がお家に来られるってはじめてだったので、ちょっと心配もしていたのですけど、いい先生が来てくださって本当によかったと思っているんです」
 「いえ…そんな。それほどでもないです」

 別にボクが家庭教師として特に優秀と言う訳ではありません。家庭教師のアルバイトで今まで五人ほど見てきましたが、K子ちゃんがいちばん真面目だったというだけです。

 追い込みの頃は遅い時間まで一生懸命勉強していたようでしたし、ボクも最後の一週間は終電が迫る時間まで付きっ切りで面倒を見させてもらいました。

 『K子ちゃん、さすがに疲れたんじゃない? 今日はこの辺でいいんじゃないかな』
 『あと1問だけやらせてください』
 『K子、先生だってお疲れなんだから無理言っちゃだめよ』
 『あともう1問だけだから。いいでしょ』
 『もうK子ったら…』

 K子ちゃんがいたずらっぽく笑ってそう言っていたのを思い出します。お母さんもそんなK子ちゃんが満更でもない様子でした。

 それにしても、お母さんは男が家に来るのが心配だったとも言っていましたが、どういう心配をしていたのでしょうか。娘に手を出すんじゃないか? とかでしょうか。

 確かに、ボクにしても、勉強しているK子ちゃんの横に座って、(いいね…『やらせてください』か…。なんか、最近、胸が大きくなってきたんじゃないか?)みたいなことばかり妄想していたのですから、お母さんの心配も無理もないことだと思います。 

 とは言いいながら、ボクはK子ちゃんに劣情してちょっかいを出したりすることはありませんでした。まあ、当然ですよね。むしろボクは勉強の合間にお母さんと話をするのが楽しみでした。

 毎回、勉強に一区切りついたところで、K子ちゃんに難しめの問題を与えて十五分くらいで解いてもらいます。その間に、リビングでお茶を頂きながらお母さんと話をするのです。専ら勉強のことが話題ではあるのですが、年が変る頃からはくだけた話もするようになりました。

 『先生? わたしいくつに見えますか?』
 『さあ…?』

 『今度の夏でわたし三十八になってしまうんですよ…』
 『そうなんですか? そうは見えませんけどね…』
 『そうかしら? ありがとうございます』

 (お若いですね)と言ったつもりでもありませんでしたが、お母さんは好意的に解釈してくれたようでした。似た雰囲気の人がどこかにいたような…。思い出せません。

 夏の生まれというだけで、ボクは勝手に水着姿を妄想してしまいます。察すればお母さんは現在三十七歳。歳相応のようであり年齢不詳のようであり…。

 ボクもいくらか気を許してあれこれ訊いてみてしまいます。

 『おいくつで結婚されたんですか?』
 『短大を出て二年くらい経っていたかしら…』
 『割と早かったんですね』
 『親同士で話があったみたいで…本当はもっといろいろ勉強したかったのですけど…』

 どことなく寂しげな影を浮かべてお母さんが追憶しています。『勉強したかった』という意味が学問の勉強なのかいわゆる社会勉強なのかはわかりません。(もっと遊んでいたかったのに)という意味ではないように思いました。

 『それにしても先生が生まれたときには、わたしもう高校生だったんですね』
 『まあ、そういうことになりますね』
 『赤ちゃんがこんなに立派に成長して素敵な男性になっているのですもの、わたしもいい加減歳をとるわけですよね…』

 お母さんが独り言のように呟きます。顔をいくらか傾けながら今度は高校生の頃を追憶していそうなお母さんに、ボクは今度は勝手に制服姿を妄想してしまいます。


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