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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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始まり-1

 カフェの窓際のカウンター席から、正面に立ちそびえる十階建てのホテルを眺めている。
 我ながら未練たらたらの行動で呆れてしまう。
 大学時代、麗美の部屋の周りをうろちょろストーキングしたことを思い出す。あのときは酷い目にあった。

 これからゆきのいない毎日が始まる。
 どのように想像しても、楽しさは湧いてこない。人生の大きな部分のひとつを失ってしまった。あるいは、ずっと前から失っていたことに私が気がついていなかっただけのかもしれない。

 だってそうだろう。
 ゆきは過去何度も、私の知らぬところで他の男と肉体関係を持っていた。一度や二度ではないし、ひとりや二人でもない。Z、F、Y、X、G、W、C――。数えると鬱になるのがわかっているのについ数えてしまう。妻や恋人の経験人数が気になって仕方ないのは、非モテ寝取られマゾの性。こんな状況になってさえ、変わらない。
 茶色のくりっとした大きな瞳で、屈託のない笑顔を見せてくれていた「ゆきちゃん」を思い起こす。清く正しく美しくを地で行く女性だと思っていた。セックスには奥手、静かで控えめな行為を好むと自分でも言っていた。

 現実の彼女はその裏で浮気、不倫を繰り返し、婚外交渉で避妊もせず膣内射精(なかだし)を許し、妊娠し、堕胎した。私たち夫婦の絆はとうの昔に失われていたということ。そうとも知らずのんきに仲良し夫婦だと信じ続けていた自分がバカみたいだ。
 いや、失うも何も、そもそもはじめから得ていなかった可能性すらある。なにしろ婚約期間中にも浮気されていたのだから。理由が傑作だった。婚約者のセックスが下手だから。早漏短小仮性包茎だから。手頃なセックスフレンドがいたから。地元という、夫にバレる心配のないシチュエーションだったから。

 くだらない。実にくだらない女だ。
 別れられてよかった。

 恋人時代から数えて十六年間騙され続けていた。
 百人に聞けば百人が私に同情するだろう。返す刀でゆきを非難する。週刊誌がスクープしたくなる気持ちもわかる。あんなに清楚で慎ましい見てくれをした美人にして今やそこらのタレントやインフルエンサーが束になっても叶わぬ有名人、良妻賢母のワーママとしてメディアにひっぱりだこの人妻が、とんでもない人数、とんでもない回数の不倫と浮気を繰り返していたのだ。

 プレイ内容も酷い。車内で、野外で、駐車場で、カラオケボックスで、公衆便所で、展望エレベーターで、生挿入、アナルセックス、フェラチオオナニー、公開オナニー、アナルオナニー、即尺オナニー、リモートバイブ、3P、ダブルフェラ、放屁・放尿・飲尿プレイ、露出・羞恥・淫語プレイ、「ケツ穴」連呼、あげくに膣内射精(なかだし)、妊娠、堕胎――。
 もし私がちょっとでもその気になり彼女のあらゆる動画をリークすれば大炎上必至。「ケツ穴」は直ちに流行語となり、ネットミームとして永久に生き続けるだろう。人々はこの単語を目にするたびに、ゆきの清楚で愛らしい笑顔を想起し、顔をニヤつかせあるいは股間を硬くするのである。
 そうなればこそ、さんざん裏切られ続けてきた私の溜飲も下がろうというものだ。自分を裏切った妻の無修正動画でひと稼ぎしたってバチは当たるまい。リベンジポルノとは言わせない。私とのハメ撮りなどひとつもないのだから。

 本当にくだらない。実にくだらない女だ。
 別れられて本当によかった。

 すべてが明るみに出ればさすがに会社には居られまい。
 いかなW――妻を寝取った男にさん付けなど不要――といえどもかばいきれず職場を追われる。寄る辺を完全に失ったゆき、転職しようにも曰く付きの女など雇ってくれるまともな職場はない。
 私からは高額の慰謝料を請求され、もちろんWやFの妻からもしかるべき訴えを起こされる。残った蓄えだけで生活できなくなった彼女が行き着く先は夜の仕事。
 抜群の美貌と話題性を活かし、そちらの世界では重宝されるだろう。最初はキャバクラ嬢やラウンジ嬢としてちやほやされるのかもしれない。
 しかし飽きられるのも早い世界。すでに三十九歳のゆきが「女」を売って稼げる時間は限られている。

「キャバ嬢程度の稼ぎでは早晩生活に行き詰まりますよ」
「短期間に大きく稼ぐならアダルトビデオしかありませんよ」
「他ならぬゆきさんですから、桁が違うオファーをご用意してますよ」

 さまざまな脅しとすかしを駆使しゆきをセクシー女優に仕立て上げようとする輩が、必ずや周囲に群がってくる。
 夜の世界に一度足を突っ込んだら最後、美人であればあるほど抜け出せなくなるというのは、ひとつには周りが放って置かないからである。ゆき自身にその気はなくとも、向こうから寄ってくる。ゆきの容姿を褒めそやし、おだて、高額ギャラをちらつかせる。
「今やセクシー女優に偏見のない時代ですよ」、「有名タレントも元アイドルも出演してます」、「セクシー女優から一般タレントに転身して成功した例もたくさん」などと甘い言葉を囁きその気にさせる。
 彼らは女心を操るプロだ。これまで数多の女性が、その気はまるでなかったにも関わらず、むしろセクシー女優などという職業を嫌悪すらしていたにも関わらず、気がつけば服を脱がされ、チンポを咥え、股を開いてきた。モデルやタレントでもそうであるのに、業界に免疫のないゆきが、彼らの甘言に騙されず身を守り続けるなど不可能。

 精神的に弱り心身ともに疲弊した今のゆきであればなおさら。
 ただでさえ押しに弱く流されやすい性格のゆきであればなおさら。
 彼女がひとたび、そのような魑魅魍魎どもにロックオンされたならば――。


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