サボり魔と委員長の放課後-2
「……なぁ、広見はウチのどこがえぇん?周りの男は『冷たい』言ってるし、女子でも似たような事言ってんのが大半やし」
そう、嘆かわしい事に、彼女の素晴らしさがわかっていない人間が結構たくさんいるんだ。まぁ、それは彼女が『委員長』と言う仮面を被っている証でもある。
「そうだねぇ。『全部』かな。僕の頭がもっと良かったなら、全ての人に納得してもらえるような事を言えるんだろうけど、生憎……僕はバカだからね。そうとしか言えない」
「…………ほんまにバカやね」
「そうだよ。『薫バカ』なんだ」
そう言うと、彼女は呆気に取られた顔した。うーん、流石にくさかったかな。
「……うわぁ、くさすぎやで」
「どうも」
「誉めてへんわ!言っとくけど、人前では言わんといてや」
「もちろん。誰にも、僕たちがあれやこれや、青少年の妄想を掻き立てるような事をしてるなんて言わないよ」
「…………何を言うとんのやぁぁぁぁ!!!!」
スパーンッ、ではなく、ガスッ、という効果音が僕の頭から発生する。しかも連続で。
さっき言った事の真意はともかく、薫と僕の関係は、今は誰にも言わない。
「…はぁ、アホな話してないでさっさと帰ろ」
薫がゆっくりと立ち上がった。
僕をはたき疲れたご様子だ。
「そうだね」
すでに僕の机には何もない。
「早っ」
「ふ、まぁね」
「呆れてんねんで、言っとくけど」
「僕は誇ってるよ、言うまでもなく」
はぁ、と再び溜め息をついて彼女は手を額に当てた。
「……呆れて何も言えへんわ。何でウチはこの男に惚れてもうたんやろ」
「何でなんだい?」
「わかってたら、言わへんやろ」
「遠まわしに呆れを表現したのかと思った」
たまに彼女はそう表現をするからね。
それにしても、気になるね。彼女が僕の事をどう思ってるのか、とかね。聞いてみよう。
「じゃあ、何で僕で良いんだい?みんなから『サボり魔』とか『屋上登校児』とか言われてるのに」
そのまま額を覆いながら、歩き出した薫の背中に問う。不安はあるけど、知りたいという欲求の方が大きい。
振り返った彼女は少し苦い顔をしながら、透き通るような関西弁で言ってくれた。
「……一回しか言わへんから、ちゃんと聞いときや。……広見やからや。ウチがあんたでえぇのは、あんたが他でもないウチが惚れた『衣笠広見』やからや」
………ふむ。
「ありがとう。身に余る光栄だよ」
本当に、光栄だ。全世界の人に知らせたいくらい。
そう言うと、彼女はもう山の向こうに行ってしまった夕日に負けないくらい真っ赤になった。
「さ、さっさと帰んで。今日の埋め合わせはツケとくからな」
さも失言したとばかりに苦虫を噛み潰したような顔になった彼女は携帯を取り出して、メモ帳になりやら打ち込んでる。
ツケ………それは彼女が僕に対して溜まったストレスなどを指す言葉だ。
ツケを無くすには……。
「今、どのくらいかな?」
「だいぶ。そろそろ、耳を揃えてきっちり払ってもらおかな」
彼女のワガママを聞いてあげるしかない。まぁ、他愛もないのが多いのが救いだね。
「うん、じゃあ言ってみてくれるかな?」
「とりあえず、今度の休日はウチとデートしてもらうからな」
「お安いご用で」
そう言うと、彼女は教室の後ろのドアを開けて、満足そうに出ていった。
さて、じゃあ土日になる前に銀行に行って、お金下ろさないとね。手数料かかるし。
そう思いながら、僕は彼女の後を追い、後ろ手でドアを閉めた。