《魔王のウツワ・2》-2
「き、昨日の…」
「…す、すみません…」
謝られることには慣れている。
「昨日は…どうもありがとうございました…美味しかったです…」
感謝されることには慣れていない…
女はやはり小さかった。小柄な身体は俺の胸くらいまでしか無い。
「すみません…お名前を聞いてもいいですか?」
女が意外なことを尋ねてきた。
少し悩み、それに答えることにした。
「…真桜だ」
今度は女の方が強張った。
「…あの真桜鬱輪さんですか?」
「…多分、その真桜鬱輪だ。知らなかったか?」
「…いえ、噂でなら…」
さらに意外なことに、俺の顔を知らなかった。
悪い意味で目立つ顔だと思うのだが…
「私…今学期から転校して来たので…」
「…そ、そうか」
その言葉を最後にまた黙ってしまった…
気まずいので牛乳を持って立ち去ろうとする。
「…あの…」
「…あぁ?」
再度、呼び止められた。
「…あの…屋上に来てくれませんか?…ノワールがご飯食べてくれなくて…」
ノワール……ああ、黒猫か…
「…朝からか?」
「い、いえ…朝は食べてました…渋々ですけど…」
「…お前はいいのか?」
その問いに女はしばし、キョトンとしていた。
「…えっと…」
「…怖くないのか?噂…聞いてんだろ?」
「はい」
女は迷わず答えた。
今度は俺がキョトンとする番だった。
「…こんな目付きだぞ?喧嘩もした事ある…それでもか?」
「はい」
顔にかかる前髪のせいで、女の表情を窺い知ることは出来なかった。
「私は…もっと…怖い目をした人を知ってますから…」
俺より怖い目?
そんな奴いるのか?
「だから…大丈夫です。初めて会った時は…ちょっと驚きましたけど…すみません…」
「…そうか」
「それで…その…来てくれませんか?」
あの黒猫は病気か?
もしかして、昨日俺がいきなり牛乳を与えたせいか!?
「…分かった」
後で、何かあっても気分が悪い…
「あ、ありがとうございます!」
女は少しだけ声を大きくして頭を下げた。