Breather-1
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「ーーーーーこうやってフィガロ城に足を運ぶのは、果たしていつ以来かな」
フィガロ城の城門をくぐり謁見の間までの長い階段を昇りながら、領主は独りごちた。
60代相応の銀色に輝く白髪に、やや日焼けした白い肌。
その黒い瞳の輝きには潤いが伴い、若人と同じといっても過言ではない。
腰には同じ鍔付の小刀を差し、両足は革製のブーツの中にくるまれていた。
顔のあちらこちらに皺が寄ってはいるものの、実際の年齢よりも何歳か若く見える。
ドマ地方で目にする上流階級向けの灰色の正装をぴったりと着こなしつつ、
衣服の下に隠れている隆々たる筋肉の膨らみは外から直ぐに判別できた。
フィガロ王国王室とは先代王から公私共に深い付き合いがある。
最近ではエドガー夫妻を領主の館に招き、”もてなした”ことは領主の記憶にも新しい。
(本当に”あの時“以来だな・・・・・)
領主の脳裏に浮かんだのは、国王エドガーの傍らに座を占める”金髪の女性“の姿。
この日は私用で港町サウスフィガロを訪れるだけだったものを、最近のエドガー夫妻の状況を小耳に挟んだことから急遽の謁見を思い立ち、こうしてフィガロ城内に歩みを進めている。
全てはその金髪の女性に逢わんが為。そしてあわよくばーーーー
(あの方も私のことをお忘れになっていなければよいが・・・・さて、お変わりないか)
衛兵の敬礼を受けつつ、知己に声をかけながら城内を進んでいく領主の口許にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
そして瞳の奥には目当ての金髪の女性なら容易に見分けられる”欲望の焔“が宿っていたーーーーーー