山田屋敷〜第二夜〜-5
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―――――――源二郎がお江に遅れて湯殿を出てからおよそ半刻、
2人分の湯気の立つ膳を手にしたお江が源二郎の寝間に現れた。
源二郎同様お江も着物に帯を締め、
黒髪を頭の後ろで一括りにまとめている。
既に太陽はその姿を天上に見せており、
目の前の膳が朝餉なのか昼餉なのか曖昧な刻限になっていた。
源二郎の前に出された膳は玄米、味噌汁、魚の小さな切り身そして沢庵という献立であり、それぞれが出来立てを現す湯気を立ち昇らせている。
どのようにお江がこれらを調達し調理したのか聞こうかとも一瞬考えたが、
自身の空腹感に加えて眼前に座るお江の微笑みが質問そのものが無意味であることを悟らされた。
いざ箸を取ると普段よりも食が進み、気づけば玄米と切り身を平らげ味噌汁に口をつけていた。
そんな源二郎の姿を、彼と同じく箸を進めていたお江は楽しそうな面持ちで眺めていた。
一見少ないかとも思えたが、いざ平らげてみると空腹の原を満たすには十分過ぎる量だったようだ。
お江が差し出した湯飲みでゆっくりと喉を潤し漸く人心地がついた。
「しかし・・・・・」
「・・・・・ん?」
「本当に惚れ惚れするような食べっぷりでございましたなぁ・・・・」
「・・・・腹が減っていたのだな。満腹になってみて初めて分かった」
「それだけ食も進めば、傷の回復も早いと存じます」
「うむ・・・・・」
気づけばお江の方も食事を済ませてしまっている。
折角お江と二人きりで膳を囲んでいたはずなのに自らの食事に熱中していまい、彼女と色々語り合うことができなかったのが今更ながらに惜しまれた。
「・・・・・さて、それでは源二郎様。傷の具合を見て進ぜましょう。どうぞはだ脱ぎになってくださりませ」
おもむろに腰を上げたお江が源二郎の背後に回る。
源二郎も彼女の言葉に従う形ではだ脱ぎとなり、左腕と背中をお江の目に曝した。
お江が傷の具合を見る間、源二郎は目を瞑り半分無心の状態であった。
当初は時が過ぎるのを待っているような趣だったが、
背後にいるお江の気配と薫り、そして手の動きを否応なく意識してしまう。
昨晩の寝床、そして先程までの湯殿での情景が生々しく脳裏に浮かび上がり妙に気持ちが波打ち始める。
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