ゴシップ-1
ゴシップ
朝、朝食を摂りながらテレビのバラエティ番組を観ていると、「令和のアフロディーテ、恋人発覚か?」というテロップが流れた。
先日の貸別荘でのことがバレたのかと肝を冷やしながら観たが、沙莉の恋人としてスクープされているのは美羽とのことらしい。これはこれで、イメージダウンに繋がるのではないかと案じたが、周囲の評価は何故か悪くないようだ。
沙莉が大物漫才師がパーソナリティを勤める夜のバラエティ番組に生出演し、真実を語るとネットニュースにも流れていて、心配になり美羽に電話をした。「おい!沙莉は大丈夫か?」「あっ、これ?お姉ちゃんと私の仕込みだから大丈夫!事務所にもOK貰ってるから!」どうやら美羽の発案で、同性カップルにしちゃえば、若干のイメージダウンにはなるものの大きな影響は無い。私の存在を隠すのに好都合だと言う。
私からすれば同性の恋人も立派なスキャンダルだと思うのだが、世の中はジェンダーレスだし沙莉ほど綺麗なら、殆ど問題は無いと美羽は言う。
週刊誌のネット版に二人で手を繋いで歩く姿や夜の公園で抱き合ってキスしてるシーンもある。物陰に隠れていないし、変装もしていない。どうやらわざと撮られているようだ。
夜のバラエティ番組で、沙莉はあっさりと同性の恋人の存在を話した。まず彼女は一般人なのでプライベートの詮索をしないで欲しいということを訴えた。まだ、付き合い始めて日が浅いこと、同棲していることも話した。
レズビアンですかという質問に対しては、愛情を持つ相手なら異性も同性も関係なく、愛こそが全てと堂々と話した。僅かな引け目も持たず真っ直ぐな瞳で愛を語る沙莉に私は感動した。スタジオ内でも戸惑いの後、キャスト全員いやスタッフも観覧客も全員、拍手喝采になった。
翌朝のネットニュースでは、沙莉を称賛する声が圧倒的だった。二人の作戦は大成功だ。私に火の粉が飛ばないように配慮した作戦だったのだが大きなイメージアップになったようだ。
結果、沙莉にたくさんのオファーが来た。化粧品会社のCMからドラマの主演、ハリウッドで活躍する有名映画監督からの出演の打診…。
沙莉は専属のマネージャーを雇い、一流への階段を登り始めた。
「御主人様に逢いたい。」相変わらず多忙の中、毎日のように沙莉からLINUが届く。「暫くは仕事に専念しなさい。美羽もいるから淋しく無いだろ。」
先月、二人同時調教をして、少しばかりレズらせてはみたが、私の調教が生じないとそういう気分にはならないらしく、SMプレイに発展したりなどはないそうだ。
姉妹のように仲は良いのだが、実際はマスコミに披露しているようなレズビアンのカップルではない。私との関係を隠蔽し、沙莉にしつこく言い寄る連中を遠ざけるのに丁度良かったのだ。
ストーリーも美羽が全て仕立て上げたらしい。将来は、推理小説家を目指しているだけはある。
「明日、お店に行ってもいいですか?お姉ちゃんは仕事なので、私一人ですけど…。」美羽からLINUが届いた。何か相談事があるようだ。
「こんにちは〜!」薄手のベージュのトレンチコート、リスのような愛らしい目、細長い肢体、少し舌足らずな話し方。笑顔を浮かべた美羽が立っていた。
「よぉ!いらっしゃい!元気そうだな!」「へぇー、お姉ちゃん、ここでバイトしてたんだ!」「物覚えが良くて優秀だったよ!」「あっ、そうだ。ベタのパーくんも元気ですよ!」
カフェコーナーのテーブルで話を聞くことにした。コーヒーを淹れる。「あっ、グァテマラですか?」「おっ、よくわかるね。」「お姉ちゃん、グァテマラばっかりだから。」
「話って?」「うーんと…。彼氏が出来ちゃって。」「おめでとう!良かったね!それで、一緒に住むとか?」「いえ、それはお姉ちゃんと一緒のほうがいいから。」
「じゃ、私に相談したいことって?」「御主人様がお姉ちゃんとどうやって出会って、調教してきたかが知りたくて…。」「それは、沙莉からたくさん聞いてるだろ?」
美羽の性格から想像すれば、より細かく具体的に知りたいということらしい。
「うーん、どうしようかな?」美羽がキラキラした目で見つめている。「沙莉には、絶対に内緒だぞ!」「はい!」
事務所の机のノートパソコンをテーブルに持って来た。バイトのフォルダーのロックを外す。ここには沙莉の調教記録が全てある。ダイアリー、動画、写真。沙莉は動画と写真があるのは知っているがダイアリーの存在は知らない。
ダイアリーには沙莉と初めて出会った日のことから最近のプレイのことまで、彼女と過ごした時間を忘れないように事細かく記述してある。
「見てもいいですか?」「どうぞ!しっかり読むと二〜三時間はかかるよ!ついでに校正もお願いするよ!」
来店客の相手をしているうちに閉店時間になった。美羽はまだ全部読みきれていないようだ。「これ、コピーはダメですよね!全部読ませて貰ってもいいですか?」
家のテーブルに移動して、美羽が集中して読めるように私はゆっくりと風呂に入ることにした。瞼を閉じて沙莉との日々を反芻する。会えない分、想いは強くなっていく。毎日、一緒に過ごした日々が懐かしい。
ガチャリとドアが開く音がして、全裸の美羽が風呂場に入ってきた。「おいっ!」「御背中流したくて、えへっ。」悪戯っ娘のような瞳を向ける。「彼氏いるのに不味いだろ!」「御主人様は特別ですから。」
湯船から出て椅子に座ると沙莉がしていたように美羽が頭から身体の隅々まで丁寧に洗う。「私で良ければ、ご調教して頂けませんか?」「沙莉と一緒の時しかダメだ!それに私が淋しいだろうと気遣って言ってくれてるだろう?」「えへっ、さすがですね。その通りです。」ちょっと淋しそうな表情を浮かべた。