冴子の秘密-9
「あ…あぁ…」
全てを出し終えた冴子はそのままへなへなと座り込んだ。
見られてしまった…しかもよりによって自分の上司であり尊敬する岡野さんに。冴子は岡野の顔を見ることができず俯いたまま動けなかった。
沈黙が続き、先に口を開いたのは岡野だった。
「西島…どういうことか説明してもらえるか?」
冴子は俯いたまま顔をあげようとしなかった。
説明しなければならないのはわかっている。だが体が震え、思うように動かない。しばらくして岡野の大きな溜め息が聞こえた。
「事情は後で聞くから朝一で会議室に来い。
俺はこのまま帰るから清掃と戸締まりだけは頼んだぞ。」
そう言って岡野は社長室を出ていった。
それからしばらくして冴子は洋服を整え、掃除用具を取りに行くため倉庫へ向かった。
廊下を歩いていると、視界がじわりと歪んだ。
冴子の目には大粒の涙が溢れていた。
情けない…いつかこうなるかもしれないということはわかっていたはずだ。なのに自分の欲を抑えられず、その結果醜態を晒すことになってしまった。
ここで何も言わず時間をくれたのは岡野の優しさだろう。
それならわたしはそれに答えるしかない。
どんな結果になっても、正直に答えよう。冴子はこのときまでそう思っていた。