冴子の秘密-10
「失礼します。」
冴子の声は震えていた。そうは思ったものの、やはり緊張して昨夜はよく眠れなかった。
会議室へ入ると既に岡野は椅子に座り、珈琲を飲んでいた。冴子は酸味のある珈琲の香りに包まれ、少しだけ緊張が和らいだような気がした。
「ここに座れ。」
冴子は指を指された椅子に座った。
岡野の顔を見るとそれはいつもと変わらないものだった。岡野は普段から冷静沈着で感情が読み取れない。
今岡野は何を主っているのか、いっそ怒鳴られたほうが楽かもしれないと冴子は思った。
「昨夜のこと、もう説明できるか?」
「はい…」
わたしは全て話した。
取引先からセクハラを受けており、社長に言っても対処してもらえなかったこと。社長室での行為はその鬱憤を晴らすためだったということ。
「だからと言ってわたしがしたことは許されることではありません。いかなる処分も甘んじてお受けします。」
「いや…こちらこそすまない。知らなかったとはいえ西島が悩んでいることに気がつかなかった。」
冴子は目を丸くした。もっと厳しい言葉が返ってくると思っていたが、逆にこちらを気遣う言葉だった。
「あの…岡野さんが謝ることではありません。わたしが我慢するかうまく受け流すことができていれば…」
「いや、我慢する必要はない。これからは悩んだときはこっちにも言ってくれ。ただそれと昨日の行いは別の話だ。」
そう言ってから岡野は紙とペンを取り出した。
「お前が社長室で行ったこと、ここに全て書き出せ。」
「…………はい?」
思ってもいなかった言葉に、冴子の口からすっとんきょうな声が出た。