(最終話)昔の男との邂逅C-7
「全然、少し……じゃ、ない……意地悪……っ」
手の甲で目元を押さえながら、はあ、はあ、と短く加奈子は息をする。
ぐちゅ、ぐちゅ、と優しく円を描く度、そこから粘着質な音がして、嫌だと抵抗しつつも加奈子もーー高みに昇ってしまいたかった。
今日、あんな仕方で倉田を傷つけてしまったことを忘れてしまいたかった。
咄嗟に出てしまった、子供がいるという言葉ーー
そもそも廊下まで出る必要はなかった。
話をしたくないと突っぱねれば良かった。
心のどこかで倉田の子供だと言いたかったのだ。
別れを切り出されてから、しばらく倉田のことが忘れられなかった。
自暴自棄になったのは嘘でなかった。
にもかかわらず避妊を欠かさなかった倉田の、子供を宿しているなんてーー
倉田が好きだったから産む決心をしたのだと、今日思い出してしまった。
ーー高みに昇ろうとしながら、左手で加奈子の乳房を堪能する理央の頭を撫でる。
理央は顔を上げて、顔を隠す加奈子の唇に、唇を押し当てる。
「ん……」
加奈子は顔を隠していた右手をずらして、彼の肩を引き寄せた。
自分から舌を使って、理央の口腔内を愛撫する。
「ん、……気持ち……いい」
静かに、呟く。
震える声を感じ取って、理央は指の動きを弱めた。
なるべく、優しく愛撫してやりたかった。
加奈子はきっと、自分に子供がいることを、倉田に言うつもりはなかったはずで。
一方どこかで罵ってやりたい気持ちもあってーー彼を傷つけたことに悲しんでいるはずだと、理央は勝手に思っていた。
「優しいのも、気持ちいい」
言いながら声が震えて、目に涙を溜めている。
こんなときに、そんな顔をするなんてーー
加奈子が絶頂を迎えるために、理央は程よい強度を保持して、指を押し付けながら円を描く。
びくん、と加奈子の体が震える。
加奈子が眉毛を八の字にさせて、目を閉じて、恥ずかしそうに、だが快感に身を委ねていることがわかる。
(やばい、いれてぇ。めちゃくちゃにしたい)
閉じていたはずの脚がゆっくりと開く。
そして理央の指がうまく当たるように、加奈子が腰をくねらせる。
「は……ぁ、ぅ……っ。こんな、とこ……ろで……」
理央の肩を掴みながら、がくがくと体を震わせて加奈子は呻く。
ぬるぬるとした体液がさらに溢れ、理央を誘う。
「嫌じゃない?」
「嫌……って言っ……ても、やめ……てくれない……で……しょ……ダメ、よ、こんなところ……で、ホント……は……」
そう言われて、理央は露出した乳房の頂きを右手の指で摘み、我慢できなさそうに先程より少し指を強めに押し当てる。
「一緒……は、ダメ……っ。ん、んぅ……っ」
「はぁ……はぁ……やべぇ、加奈子、エロすぎ」
「エロく……なんか、ないもん……っ……仕方、ないでしょ……! ん、や……ぁ……っ、ダメ、いく……」
シートの上で、加奈子の体が弓なりに反って、理央の肩が強く掴まれる。
さらには体が引き寄せられ、ぎゅぅうっと体を抱きしめられた。