(最終話)昔の男との邂逅C-5
「結構静かね。解散したの? 一人にさせてくれてありがとう。もし、良ければ迎えに行こうかと思ったけど、邪魔しちゃった?」
「うん、僕一人。迎えに来てくれるなら嬉しい」
一旦電話を切って、文字で場所を伝える。
理央は嬉しくなって、ふふっと笑った。
「彼女さんですか?」
カウンターの中にいる黒いシャツを来た男の店員が、嬉しそうな顔をしている理央に声をかける。
「そうです」
しばらく店員と話をして、氷の溶けかかったグラスの最後の一口を飲み干したところ、カラン、と入口の鈴が鳴る。
加奈子だった。
「ごめんなさい、メッセージ送ったけど、返信なかったから…。すみません、冷やかしになってしまって」
入口近くの席に座る理央に歩み寄り、加奈子は店員に謝る。
「いえ、かまいませんよ」
店員はにこり、と笑いかける。
髪は下ろし、ジャケットこそ羽織っていないものの、仕事で着ていたグレーのタイトスカートを身につけたままだった。
自分がいなかったことで、着替えもできずに家のことを色々やっていただろうことが伺える。
胸がきゅっと締め付けられた。
「何、飲んでたの?」
そんな理央の思いをかき消すように、加奈子は尋ねる。
「ラフロイグ、って知ってる?」
「へぇ、ラフロイグ好きなんだ。あたしも。子供産んでから家でしか飲めなかったから、飲まなくなっちゃったんだよね」
「え」
他の人があまり好まない酒を「あたしも」好きと言われて、嬉しくなった。
会計を済ませて、バーから出ると、店の前に停まった加奈子の車に乗り込む。
あまり酔ってないつもりだったが、歩いてみるとラフロイグの酒の濃さが効いていることがわかった。
「ラフロイグ、今度買っておくよ。おうちで飲もうよっ」
嬉しそうに理央が言う。
「そうね。独りで家で飲むには少しお高くて、なんだかなーって感じだけど。理央とならいいね」
嬉しくなりながらも、車を運転する加奈子の体をちらちらと見やる。
視線を移して、タイトスカートに包まれた下半身を見ると、アクセルやブレーキを踏んで脚が動く度に、どきどきしてしまう。
「ーー理央、見すぎ」
「えっ、あ……」
気づかれて、ぷいっと理央は窓の方を見た。
「エッチ。気になるの?」
「ん、だって……」
左肘をドアのフチにかけながら、むぅ、と口を尖らせた。
「……あとで、しよっか」
その言葉に、理央は加奈子の方を振り返る。
信号待ちの状態で、加奈子が理央にほほ笑みかける。
絡まった視線は、とても艶っぽい。
(やばい、今すぐにでもぎゅうってしたい)