第四十七章 白い波と天使(画像付)-1
【啓介と同居 四ヶ月目】
【20●1年4月4日 AM11:00】
数時間後。
海岸で。
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「キャー・・・」
白い波の泡と共に天使が駆けて来る。
薄いブルーのフレアスカートが風に翻り、しなやかな足を覗かせている。
子猫のように瞳を丸くさせて次の波を待っている。
タイミングを計ってギリギリの所まで追いかけていく。
何度も同じ事を繰り返している。
砂浜に腰掛けながら啓介は眩しそうに跳ね回る女を見つめていた。
今朝、恵は一人泣いていた。
肩を震わせる後ろ姿がひどく小さく見えた。
無理も無い。
この不条理な愛を背負っていくほど、心は強くない。
だが、もう戻れない。
今の自分に出来る事は、こうしてジッと愛おしい天使を見守るだけであった。
恵が嬉しそうに手を振っている。
男が微笑みでこたえる。
わからない。
それで、いいではないか。
愛しているのだ。
それだけは確かな事実なのだから。
「アハハ、ハハハハ・・・」
戻ってきた恵が倒れ込むように隣に座った。
広いオデコに大粒の汗が浮かんでいる。
柔らかなショートヘアを靡かせて笑っている。
水平線が遠く一直線に空と交わり霞んでいた。
「あー、気持ちいい。最高ぉ・・・」
春の日差しが眩しい。
人気の無い砂浜は波の音だけが響いている。
二人は少し遠出をして海に来ていた。
今日は恵の好きな洗濯もお休みである。
女は男の肩にもたれながら囁いた。
「ねえ・・・」
男が顔を向けると視線を遠くに向けたまま続けた。
「私達・・・どう見えているかしら?」
そしてイタズラっぽい瞳で見上げてくる。
愛しさが込上げる。
心が溶けていく気がした。
「そうや・・な・・・」
「親子?それとも・・・愛人?」
男の言葉が待ちきれずに恵が聞く。
「そうや・・な・・・」
女はウットリした表情で肩にもたれている。
義父の声が耳元を伝わってくる。
口数の少なさが嬉しかった。
なぜか安心できた。
一旦、喋りだすと止まらないのに。
今日は殆ど口を開かない。
今朝の涙の訳を何も聞いてこない。
いつだって見守ってくれている気がする。
恵は心から甘えられる気がした。
何も考えずに波の中を漂うように。
「私・・泣いちゃった・・・」
「知っとる・・・」
男の腕が肩に廻った。
優しく恵の細い肩を抱き寄せる。
恵は全てを預けたまま呟いた。
「強く・・無いよ・・・」
水平線がぼやけてくる。
男の温もりが心地良い。
「ああ・・そうや・・・」
男が恵に視線を移して言った。
女も潤んだ瞳を向ける。
「恐い・・の・・・」
又、溢れてくる。
今朝、あれだけ泣いたというのに。
男が微笑んで答える。
「そんで・・えぇ。そんで・・・えぇんや」
自分にも言い聞かせるように言っている。
女はもう何も言わず、漂う事にした。
男の腕と頬を伝う涙の温もりに、心を預けて。
震わせる天使の身体を愛おしそうに包む。
それで良いと男は思った。
そう、それだけで。