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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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秘密 ……… 第一の物語-9


秋が深まりつつあった。夫の意識はあいかわらず戻ることはなかった。私は残酷にも、夫の意識がずっと戻らなければいいと、眠りからこのまま覚めなければいいとふと思った。それが本意なのか、不本意なのか自分でもわからなかった。濃さを増した秘密は簡単には薄められない。アキオさんとの関係がひと夏の情事だとは思いたくなかった。

アキオさんから電話があったのは、彼に最後に会ってから三か月後だった。

――― ぼくたちの秘密はもっと濃くする必要があるのです。それはあなたが望もうと望むまいとそうなっていくのです……。

ホテルの部屋で久しぶり会ったアキオさんの声は、これまでと何かが違っていた。顔の表情も、彼の視線も、仕草も何かが変わっていた。それはあのときの優しげないつもの言葉でも声でもなく、私に向けられた硬質で冷酷な命令の声だった。
それでも私のアキオさんに違いなかった。私の体が抑えようもなく彼を求め、疼いていた。止められない心の昂ぶりは体の肉底まで限りなくゆるませた。彼に対する愛おしさはあふれるような欲情へと変わっていった。
部屋のすべてが鏡で覆われ、蜜色の灯りが漂っていた。どこを見ても私とアキオさんがゆらぐように映っていた。
こういうこともすでにぼくたちには許される関係なのです……と彼は言いながら首輪と革枷の束を手にしていた。
彼が、ほんとうは《そういう男》だったとしても私は彼の欲望を拒むことはできなかった。彼が私を拘束し、虐げたいという欲望を。その欲望を受け入れることで、私はもっと彼との秘密を深く、濃くすることができる、もっと彼との秘密に飢えることができる……そう思うことができる自分がいた。私は自分の心と体のゆらぎを抑えることができなかった。彼に身も心も縛られ、奪われ、虐げられることを赦せるほど、彼が愛おしく、彼が欲しかったのだ。
彼は私の頬を指でなぞりながら言った。

――― あなたは、自分の秘密を、自愛としてもっと濃くすることができます。そういう女性なのです。

全裸の私は、ベッドの端々に拡げた両手首と両足首を革枷で拘束された。私の頬にキスをした彼は、私の手首と足首のひとつひとつの枷に鍵をかけた。私の手足と肉体を封じ込める鍵の音がした。それは彼のそういう行為を私に見せるためのものだとわかった。私が彼のものであることを示すために。そして最後に私の首に首輪と口枷を嵌めたとき、私は彼との秘密が永遠に続くような錯覚さえいだいた。
彼にこういう姿にされるかぎり、私は彼との秘密は続けられる……私はひとりよがりにそう思い、そう思うことで安心した。私は彼を手放したくない、彼と私は秘密という絆で固く結ばれ続ける……私はまるで夢遊病者のように自分の心に酔っていた。

蜜色の淡い光が私たちの秘密を溶かしていくように漂う。私は彼に、まるで深海の底に永遠に沈められるような快感に浸らされていく。肌が弛緩し、淡い光に、彼の視線に、触れる彼の指に犯されるような甘美な震えが小刻みに体の芯を流れていく。彼の指は私の体のあらゆるところを這いまわり、忍び込んできた。私の肉体は輪郭を失い、沸々とした泡沫が体の芯を麗しく膿ませていく。
きて……焦らさないで………あなたが欲しい……早く、早く欲しいわ………
口枷をされて声にならない声が咽喉の奥に絡まった。

――― そのときだった……。部屋の灯りが眩しいほど点灯し、白々とした明るい光が降りそそぐ。強い光は私の顔のお化粧を剥ぎ、肌の染みを浮き上がらせ、肉のたるみを翳らせ、毛穴を穿つ。



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