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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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秘密 ……… 第一の物語-6


虫の音が家の浴室の外で聞こえ始めた。気がつかないうちに季節は秋になっていた。
ふと気がつくと浴槽に浸った私の白い体が湯と絡みあうようにせめぎ合う音が響いている。充たされたものを体の奥に感じた。それは間違いなくアキオさんとの秘密によってもたらされたものだった。
家は古かったが、浴室だけは五年前にリフォームした。かなり傷んでいるからと夫は言い、壁や天井だけでなく浴槽もすべて新しい檜のお風呂に作り直した。木の匂いが仄かに匂ってくる浴室を私も夫もとても気に入っていた。
肩や下腹に歳とともにむっちりとした肉がついていたが、湯に蒸された肉体が蒼みを湛え、いつのまにか女を滲ませるように艶めかせている。乳房は手に触れると若い頃と違って弾けることはなく、掌の中で蕩けるように掬いとられ、ゆるんだ肉が付き始めた下腹の陰毛だけが以前にも増して濃さを湛え、水母のように揺れていた。
夫は浴室の壁に大きな鏡を付けた。なぜそんな大きな鏡がここに必要なのかわからなかった。鏡は裸の私を隅々まで映し出す。まるで私の体の中にある秘密を探すように。それはまるで夫が鏡の中から私を見ているような感覚だった。

そのときだった。誰かの気配がした。それは気のせいなのか……いや、たしかに誰かに見られているような気がした。
湯船に浸かった私は浴室の隅々まで見まわす。今まで気がつかなかった。鏡の上の天井に近いところの黒く丸い穴。これまで壁板の節だとおもっていた黒いものはよく見ると穴になっていた。私は浴室から出ると衣服を纏い、外に出てみた。庭の樹木に隠れるような浴室の壁を懐中電灯で照らすと、黒く丸いものは、やはり板壁がくり抜かれた穴だった。
板壁の穴の下には頑丈な踏み台が置かれていた。私は瞬時に思った。誰かがここから浴室の中の私を覗いていたに間違いなかった。私の脳裏にあの庭師の顔が浮かんだ。彼でないと庭のなかのこの場所に気がつく者はいないのだ。いったいいつから私はあの男に浴室の中を覗かれていたのか、私は背筋をナイフでなぞられるような鋭い寒気を感じた。

その夜、私は眠れなかった。あの穴は、いつからあそこにあったのだろうか。巧妙に細工をされたような穴は最近、穿たれたものではない。おそらく浴室を改修したときに作られたように見えた。そう考えたとき、ふと夫の顔が浮かんだ。まさか夫があの穴を作った……いったい、なぜ、そんなことを。夫が浴室の私の裸体を覗くためにものではなかった。そんなことを夫がする必要はない。夫はいつでも私の衣服を剥ぎ、裸を見ることができたのだから。違う。夫は、最初からあの庭師に私の裸を覗かせるためにあの穴を意図的に仕組んだのだ……私の裸をあの男に覗かせることに夫は快感を求めて。
それは、私が知らなかった夫の秘密だったのだ。ふり払いたくなるような妄想だった。夫の真面目な顔つきが脳裏の中で淫猥にゆがんでくる……。




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