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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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秘密 ……… 第一の物語-2

意外だった………まさか彼にあんな大胆なことをされるとは、私は思ってもいなかった。
一瞬の出来事だった。誰もない音楽室で私は彼に抱きしめられ、強引に唇を求められた。そして私を抱き締める彼の腕としなやかな指、そして重ねられた唇を拒むことなく、素直に受け入れた私自身がもっと意外だったかもしれない。
音楽室の壁に付けられた大きな鏡が抱き合う私たちを映し出していた。その鏡を見たとき私は、初めて自分という女の中に芽生えた秘密を知ったような気がした。
つかのまの夏の出来事だった。彼はその夏休みを最後に転校し、私はそのとき以来、彼と会っていなかった。


十八年ぶりの再会だった。そしてあの日のことが鮮明に記憶の中をよぎったとき、頬が微かに火照ってくるのを感じた。
彼の顔はあのときの面影を残していたが、顔のどの部分もすべてが洗練されたようにとても大人びていた。それは私を求めた彼の唇もそうだった。その蜜色の唇に私の記憶がゆるやかに目覚めさせられる。
背の高い細身の身体はたくましく引き締まり、がっしりとして衣服の上からでもしなやかな胸の厚みや、腕や脚の太腿の筋肉を感じさせた。何よりもピアノを弾いていたあの長い指は、くっきりとした形を浮かばせ、あのときと変わらずとても優雅な線を描いていた。

――ぼくと先生の秘密を思い出してくれたみたいですね………それが再会した彼の最初の言葉だった。

心と体が忘れ去った自分を求めていた。翳りのない、どこにも欠けたところのない胸の高まりは、私がすっかり忘れ去っていたものだった。私は彼との秘密の縁(ふち)をもどかしくなぞり、秘密に抱かれるように身をゆだねていった。
 彼の愛撫は、私の色褪せた部分をすくい上げ、甦らせてくれた。肌のシミも皺も、肉のゆるみも、彼に触れられたところからまるで魔法のように消え、唇で愛撫を受けたところから瑞々しさを息吹かせていくような錯覚さえいだかせた。そして求め合う行為は、彼と私の秘密を色濃く染めていった。

アキオさんの瑞々しい肌と体温が湿り気を帯びながら私に絡まってきた。ベッドの中で私を抱き寄せた彼の手はとても穏やかに私の渇きを包み込んでいた。
何よりも私は彼の指を欲しがっていた。しなやかで細く長い指。それは私の遠い記憶を含んだ私だけの指のように思えた。指のあいだを瑞々しい音楽がとおり抜け、私の肌を優しく撫でてくれるような彼の指。その指は私の首筋を這い上がり、耳のうしろの小さな窪みをなぞり、顎に触れ、唇に蝶のようにふわりと止った。
彼の瞳から洩れる視線の光は私の心と体をゆるめ、乱そうとしている。彼の指が私の唇に線を描くと、唇は自然と開いていく。あのときの遠い記憶を静かにたぐり寄せるような指が私の口に含まされる。唾液が自然と滲み出てくる。記憶は果てしなく拡散し、まわりのすべての光と音が、そして唇に感じた彼の指の仄かな甘さが私を溶かしてしまいそうだった。身体の中の一番、渇いていたところがゆるみ、解き放たれ、肉体の奥に溜まっていたものがとても安心している。

彼の指は私の唾液をたっぷりすくい取り、私の下半身へ向かった。湿った陰毛をゆるやかに掻き分けた彼の人差し指と中指が交互に優しく蠢きながらも、迫るように私の肉の合わせ目をとらえた。
そうしていながらもアキオさんは私の顔に、とても静かな、ゆるぎない視線を注いでいる。私は彼にすべてをゆるすように体を開いていく。彼の指が私の肉洞をゆるやかに浸食するように挿入される。私は微かにのけ反り、腰をゆるがせ、飢えた肉襞を彼の指に恥じらうように巻きつけていく。自分の心が蕩けていくように滲み出す蜜汁が細かい粒となって欲しかった彼の指に群がっていく。そのとき私は抑えられない何かが自分の肉体の奥で膿んでいくのを感じた。




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