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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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秘密 ……… 第一の物語-12


冬に向かう風が冷ややかな太陽の光を含んで、私と夫のあいだをすり抜けていく。
夫は退院して、この家に戻って来た。久しぶりに夫が外で珈琲を飲みたいというので私たちは庭のテラスの椅子に並んで座っていた。夫はまだ体の調子が完全には戻らないのか、いつも杖を手にしている。私が何よりも怯えているのは、夫がベッドで私を求め、私の秘密が夫に知られることだった。
「昨夜は帰りが遅かったようだな。同窓会は楽しめたのか」と夫は言った。
「えっ……ええ、久しぶりに古い友人と会ったもので、話がはずんでしまいましたわ」と私は微かな震えを吞み込むような声で言った。
夫は何の疑いもいだくことのない顔をし、珈琲カップを手にしながら不意に言った。
「昨夜、きみがいないときにあの庭師から電話がかかってきてね。元気そうな声だったよ」と夫は言った。
 私はその言葉に胸の奥を針で刺されるような息苦しさを感じた。
 あのとき……あのときだった。庭師の男は夫に電話をかけていたのだ。縛った私の中に男の醜く肥大したものを挿入し、淫らすぎるほど私の中を捏(こ)ね、突き上げ、掻き回し、私の体の中心を貫いている最中に、手に持った携帯電話で夫と話をしていたのだ。
 私は朦朧とした意識の中で確かに男の声を聞いていた。
「実は、あの男に女ができたそうだが、どうもその女には夫がいるらしく不倫らしい。あの男の風貌からして想像できないが、彼も隅に置けない奴だな」と言って夫は微かな笑みを見せた。
 
 何も知らない……夫は何も知らないのだ。そう思うとあの男との秘密が貞操帯の中で蛇のように頭をもたげ、疼いてくる。そして私の中に滲み込んでいる男の精液が無数の蟻のように蠢き始め、私の欲望を嗅ぎ取ろうとしている。
 そのとき夫が私の手を握って言った。なぜか、きみを別人のように感じるよ……。


―――――

旦那様も、お元気になられてようございましたね。旦那様のお声が聞きたくて電話をかけさせていただきました。ああ、ありがとう。あんたも元気そうだな。まさか、僕が倒れて、意識を一年あまりも失うとは思わなかったよ。ほんのひと晩だけ、眠っていたような感覚だ。もうしばらくしたら、前のように体調も戻りそうだ。奥様もさぞかしお喜びになられたことでしょう。ああ、妻は、今夜は久しぶりの同窓会で出かけているが、妻にはいろいろ迷惑をかけたと思っているよ。
ところで、例の浴室の穴はどうなったのか。実は奥様に気づかれてふさがれてしまいました。そうか、あんたにとっては残念なことだな。いえいえ、旦那様こそわたくしが浴室の奥様をのぞき見していることを楽しんでおられましたから、さぞかし残念でございましたね。それは、僕とあんたの秘密だったな。
それにしても今度のことは悪く思わないでくれ。この屋敷も古くなり、ここの一帯に新しい商業ビルが建つことになり、手放さないといけなくなった。僕もこの身体でもあるし、便利のいい静かなマンションで妻といっしょに余生を過ごすことになりそうだ。長いあいだ庭の手入れをしてくれたことに感謝しているよ。いえいえ、わたくしには、ほかの仕事のあてもありますから、ご心配なさらないでください。それよりも旦那様やお綺麗な奥様とお会いできなくなることがとても残念でございます。
その歳になったあんたに言うのも余計なことだろうが、あんたも若くないのだから、そろそろ所帯でも持ったらどうか。ご冗談を、わたくしみたいな醜男の女房になる女なんてこれまでいませんでしたよ。でも、ひとりだけ惚れた女がいて、最近、懇意にさせていただいています。 ほう、それはよかったじゃないか。若い女なのか。いえいえ、五十歳を過ぎた歳のいった女ですよ。でも、その女には夫がいましてね。不倫というには、わたくしみたいな男が言う言葉ではありませんが。
その女性はあんたと浮気をしているということか。あんたもなかなかやるものだな。ええ、その女の夫に知られることなく、わたくしとの秘密の関係を女と無理やり持つことができまして。旦那様がご存じのようにわたくしの変態癖でね。わたくしと女とのあいだに秘密を作ってじわじわと女を責めたてていくのですよ。秘密によってわたくしから離れられなくなるようにね。あんたがそれほど惚れ込んでいるところを聞くと、よほどの女なのだろうな。
ええ、それはとてもいい女です。今こうして旦那様に電話をかけていますが、実は縄で縛ったその女とあれの最中なのですよ。わたくしのものも久しぶりに元気でね、それに女のあそこの締り具合もよくてわたくしのものを深く咥え込んでいる女の顔を見せてあげたいくらいです。口枷を噛ませている女の唇の端からたっぷり涎を垂らし、嗚咽を洩らしている女はいい顔をしていますよ。あんたも若くないから、ほどほどに楽しむことだな。
女がわたくしとの秘密から逃れる方法は、彼女が夫と別れ、わたくしの女房になることでしょうか。でも、そうなることはけっしてないでしょう。ほう、あんたはどうしてそう言えるのか。なぜなら、その女はわたくしから離れられないのではなくて、わたくしの手によって、身も心も秘密から逃れたくない体の女になっているのですから。薄々、女もそのことに気がつき始めていますよ。
そのうち、女を旦那様にご紹介する機会があればと思います。わかった、あんたからの連絡を楽しみにしているから。


…………(第一の物語 「秘密」 終わり)




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