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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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秘密 ……… 第一の物語-11


秋が深まり、冬を迎えようとしていた。夫は意識を回復した。少量の食事もとれるようになり、少しの時間だけ私と病院の庭園を散歩することもできるようになった。
一年ぶりに目を覚ました夫は、ベッドに横たわったまま、とても長く眠りすぎたようだと以前の変わらない表情で言った。
病室の窓の外は、いつものように晴れていた。晴れているのにその空は空虚に見えた。
庭の銀杏がいつのまに散り、地面を黄金色に染めていた。そういえば夫が倒れたときも、ちょうど今の時期だったことを想い出す。
望んでいたことではなかったのか、夫がふたたび意識を取り戻すことを。いや、暗澹たる私の胸の内は、残酷にも夫の回復を願っていなかった。このままずっと夫の意識が戻らなければいい……どこかで私はそう思い続けていた。なぜなら私は夫に絶対に知られたくない秘密をもつことになったのだから。
あの夜、アキオさんに取り残された部屋にあらわれた庭師の男に無理やり肉体に刻まれた恥辱……そしてあの男は私に貞操帯という、卑猥でいかがわしいものを纏わせたのだった。もちろん貞操帯を外す鍵はあの男だけが持っていた。
病室の窓ガラスに映った別人のような私の顔が、私の秘密をじっと覗いていた。私はあの男によってもたらされた、アメーバのように増殖していく秘密によって蝕まれていく。あの男は私の中に絡まってくる混迷を卑猥に弄(もてあそ)ぼうとしている。
 
夫が昼食をすませ、うとうとと眠りについたときだった。不意に携帯電話が着信を示す点滅を繰り返す。庭師の男からの電話だった。私はとっさに病室の外のテラスに出た。

………病院の看護師に聞きましたよ、旦那様の意識が回復したそうで、ようございましたね。
今、病院でございますか。今週末には旦那様もご退院だと聞きました。まさかお忘れになったわけではないと思いますが、来週の金曜日はわたくしとの約束の日です。いつものところでお待ちしています。旦那様がお元気なられたからといって、わたくしとユキノ奥様のあいだの秘密がなくなるわけではありませんからわたくしとの約束を拒むなんてことはできませんよ。ええ、あのとき、あなたを撮らせていただいた写真は、わたくしの手元にあります。奥様の麗しい陰毛の繁りがわたくしの手で剃毛されたことを覚えてらっしゃるでしょう。若々しくなったあそこの割れ目をむき出しにして、むっちりした太腿を開いているお姿をばっちり撮らせていただきました。それも裸のわたくしとのツーショットの写真です。とても仲睦ましく映った写真ですよ。旦那様やご近所の皆様に今すぐにでもお見せしたいくらいです。
あのアキオとかいう男も罪な男です。奥様の体に肉欲の火をつけたまま捨てるのですからね。わたくしには奥様の乳色の肌の奥に麗しいくらいの火照りを指に感じましたよ。覚えていらっしゃるでしょう、あそこに含んだわたくしの指を。指を締めつける奥様のあそこもたっぷりと濡れてとてもよかったですよ。まさかわたくしの醜い指で奥様が気をやるなんて思いもしませんでした。五十歳を過ぎたからといっても奥様の体もまだまだ捨てたものじゃない。
ところで貞操帯のお具合はいかがでしょうか。そんなお姿を旦那様の前に見せるわけにはいかないでしょう。夜のベッドの上で旦那様の求めを拒む奥様の素敵な顔が想像できますよ。おわかりだと思いますが、その貞操帯はわたくし以外、けっして外すことはできません。
わたくしとの秘密は、深められるほどに奥様をもっと違った女に変えます。そうでしょう……奥様がずっと求めていた自分に。自分の体がどう変わったか、そのことに奥様はすでに気がついているのではありませんか。

約束の日、必ず来ていただけますよね………。




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