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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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再会-4

 楓さん、変わってなかったな――。
 美しい夕焼けを背に駅へ向かうゆきの心は、温かいもので満たされていた。

 大学一年の冬、自分のせいで楓とは一度縁が切れたが、二十年の時を経ても、当時とまったく変わらぬ会話ができたことが嬉しかった。次は家族ぐるみで食事しようという約束までしてしまった。温かい時間に水を指したくなくて、夫との別居は言い出せなかった。そもそも楓の夫Eとは、楓公認とはいえ何度も肌を合わせた男性。やはり顔を合わせづらい。

 あの夏、蒸し暑い民宿の一室で、ゆきの恋人Dのペニスが楓の中に挿し込まれた瞬間をはっきり覚えている。その瞬間、楓の整った顔が愉悦に歪んだ。いつもは涼やかな口元から彼女らしからぬ可愛い吐息が漏れた。憧れの先輩も男の前では「女の子」になるのだと知った。しかし相手は自分の恋人。ゆきは傷つきながらも、下半身が疼く自身の身体に戸惑い、流されるままにEと交わった。彼とのセックスは、悲劇的なまでに気持ちよかった。いつしかゆきはEとのセックスに溺れ若い身体のすべてを捧げ奉仕するようになる。背徳の行為はゆきの心を少しずつ蝕み、身を持ち崩したゆきは大学を一時ドロップアウトした。

 地下鉄の駅へ下る階段から、生温い風が吹きあがってきた。
 最後のほう、楓が言っていたことが頭に引っかかっている。

「実は私たちね、オープンマリッジなの」
「オープンマリッジ?」
「恋愛やセックスの対象を複数もつこと。ポリアモリーという人もいるけど、私たちの場合はオープンマリッジっていうほうが正確なのかな」
「……? それってつまり……?」
 楓は、結婚後も幾人かの男性と関係を持っていることを仄めかした。
「うふふ。びっくりした? 結婚前にEくんと相談して、そうしようって決めたの」

 反応に戸惑うゆきに、楓は言葉を続ける。

「軽蔑されても仕方ないけどね。でもいろいろあってさ、二人でそれがいいねって話し合ったんだ」
「いろいろって、もしかして私たちとの……」
「うん。大学時代のゆきちゃんたちとのことも影響してるかな、やっぱり。というより、あれがそもそものきっかけだったのかも。まあそこからオープンマリッジの結論に至るまで数年かかってるから、それだけじゃないんだけど」

 4Pやスワッピングの関係解消とともに別れを選んだゆきとDのカップルとは対照的に、楓とEの二人はその後も順調に付き合いを続けた。ところが卒業後、Eはある女性と浮気をし、それが楓にばれてしまう。当時結婚を考えていた二人だが、いったん白紙にしてもう一度やり直そうと話し合う中で、楓が実は自分も浮気していたことを白状する。
「ごめんEくん。私はEくんを非難する資格はなかった」
「ううん。俺こそ。ほんの少しの誘惑に負けた。ごめん」
 二人はそれでも愛し合っていたが、大事な時期にも関わらず双方の浮気が発覚したことで、彼らは別れを選ぶ。
 その後数年間、それぞれにさまざまな恋愛、性愛経験を経た二人は、ふとしたきっかけで再会しよりを戻す。すでに過去のわだかまりも消えている上に、彼らは離れていた間も互いを片時も忘れることなく、想い合っていたことが判明したのだ。三十歳を前に結婚を真剣に考える時期。もちろん迷いはあった。前回は結婚を前提にした交際期間中に、よりによって双方が浮気するという最悪の別れ方をしているのだ。

「それで私たち、いったん一人で落ち着いて考えようってなって、後日もう一度話し合ったの」

 このとき彼らがそれぞれ出した結論は、驚くことに一緒だった。
 それが「オープンマリッジ」である。

 ホームに停車した車両へ乗り込む。
 つり革に掴まるゆきの目の前で、若いカップルが手をつないで座っている。女は男の肩に頭を預け、まどろんでいる。愛し合う男女には地下鉄特有の生臭い空気など気にならないだろう。

「笑っちゃうよねえ。でも私とEくんね、お互い大好きだったし結婚して家庭を作るならこの人しかいないって二人とも思ってたの」
「惚気になっちゃうけどEくんのこと最高のパートナーなのはわかってたし、向こうが私のことそう思ってくれてるのも知ってた」
「別れてまったく連絡取ってないときでさえね」


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