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《魔王のウツワ》
【コメディ 恋愛小説】

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《魔王のウツワ》-6

ノワール(黒)という名前から、この黒猫のことだと思われる。

「…お前の猫か?」
「は、はいっ!」

小さく、細いが、綺麗な声だった。

「…あ、あの…最近…道端で捨てられてて…そ、それで、可哀相で…あの…」

途切れ途切れになりつつも必死に説明を始めた。
いや、弁明か…

「別に学校には言わねえよ…」
「…あ、ありが…」

ぐぅ…

「………」
「………」

確かに聞こえてしまった…
女の顔が段々と赤くなっていく…
気まずい…物凄く気まずい…
どうしたら…
聞かないふりをするべきなのか…

「…わ、悪かった…」
「…あ、いや…その…」

真っ赤なままで女は言った。
ボソボソと消えてしまいそうな声だった。

「ナァ!」

黒猫が一声上げた。
牛乳を飲み終わっていた様なので、さっさと弁当箱を片付けようとした。
その弁当箱の中に一つだけおにぎりが残っていた。黒猫に構っていて、食べ忘れていた様だ。

少し悩んだ結果…

「…コレ…食うか?」

おにぎりを弁当箱ごと女の前に差し出した。

「別に変なもんは入ってねえよ…」
「…いや…そんなにお世話になるわけには…」

ぐぅぅぅ…

また、沈黙…

「す、すみません…い、いただきます…」

女はほとんど聞こえない声で言った。

女がおにぎりを両手で持ち、食べるのを確認すると弁当箱を片付け、人間失格を持ち、屋上を出ていくことにした。
相手もこんな目付きの悪い奴がいたら、食べにくいだろう。

「勝手に餌やってすまなかった…」
「ひへっ!」

何か変な声が聞こえた…

女は慌てて、おにぎりを飲み込むと立ち上がった。

「い、いえ!ありがとうごさいました…私…今日…お弁当を忘れてしまって…ネコ缶ならあるんですけど…」

改めて女の足下を見れば、ビニール袋に2・3個の缶詰が入っていた。

「……おにぎり…ごちそう様です…美味しかったです…ありがとうございました…」

俺は振り返らず、ドアを閉めた。
人から恐れられることはあっても、褒められることは無かったから、今の自分の表情に自信が無かったのだ…

元から表情に自信は無いのだが…


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