第三十九章 始まり-1
【啓介と同居 四ヶ月目】
【20●1年4月3日 AM8:40】
翌日の朝。
庭で。
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恵は漂っていた。
白い海の中で。
昨日、義父に抱かれた時のように。
同じ匂いがする。
頭が痺れてくる。
何も見えない。
目の前には、ただ白い世界が広がっていた。
このまま、今はこのまま漂っていたい。
義父に抱かれた日の翌朝。
昨日の大雨は嘘のように太陽が顔を出していた。
青い空が広がっている。
色とりどりの布がそれを縁取っている。
恵は幸せを噛み締めていた。
二人の愛の中に包まれている。
洗い立ての洗剤の匂いは以前から大好きだったけど。
今は違う興奮を呼んでくる。
昨日、義父に抱かれた。
夫の父とセックスをしたのだ。
あれほどの絶頂は夫の時とは比べ物にならなかった。
禁断を破る不条理な想いが快感を増幅させる。
同時に義父への恋心も確実に認めたのだ。
眠っていた想いを呼び覚まし、新しい愛に震えている。
だが、それとは別の感情にも戸惑っていた。
昨夜、夫と寄り添うようにして眠った。
武は予期しなかった「ご褒美」に満足そうな寝息を立てていた。
妻の懺悔の行為とも知らずに。
そんな夫に恵は今までに無い愛情を感じている。
自分の犯した罪に何も気付かずにいる夫がイジらしく、この愛を大切にしていこうと思った。
夫のために一生懸命尽くしていこうと心に誓う。
そして新しい愛にも真正面から向かい合い、自分の気持ちに素直に生きていく事も。
恵は両腕を一杯に伸ばして深呼吸してみた。
洗い物の香りが心地良かった。
昨日の愛の余韻が蘇ってくる。
恵は禁断の果実を口にしてしまった。
それは切なくも不思議な味がした。
自分の心に閉じ込めていたものが全て弾けて、官能の嵐となって身体中を襲った。
もう、戻れないと思った。
これからもこの白い海の中で漂い、新しい愛を育てていこうと思うのだ。
悪い女だ、と思った。
夫の浮気を責めておきながら遥かに重い罪を自分は犯している。
だが、それでもいいと思う。
例えズルイ女と呼ばれても二つの愛に生きていこうと決めたのだ。
どちらも捨てたくは無い。
昨日、熱い愛を飲み干した恵の唇を優しく男達は味わってくれた。
愛おしそうに舌を絡ませながら言ってくれた言葉は、一生忘れないであろう。
【愛している・・めぐみ・・・】
二人の想いが同じフレーズとして恵の心に刻まれた。
恵は二人の男達に、それぞれ心を込めて言葉を返した。
「私も・・愛しています・・・」
それは心に一点の曇りもない真実の言葉だ。
恵は支えきれない程の愛を背負っていく。
自分の全てをかけて。
恵はもう一度伸びをすると澄切った青空を眩しそうに見つめた。
そしてこれから始まる新しい生活に、心を震わせるのであった。
今朝、夫への愛を唇に託して見送った。
出勤前の玄関で新婚当時よりも、気持ちをこめて夫は返してくれた。
優しく、激しいキスであった。
まだ余韻が残る唇に指を当てながら、恵は新しい恋人の事を想っていた。