第三十九章 始まり-2
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【啓介と同居 四ヶ月目】
【20●1年4月2日 PM4:00】
昨日、二人が結ばれた後。
リビングで。
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『えっ、出かけるんですか?』
義父の逞しい腕の中から顔を上げて、恵が残念そうな声を出した。
『そや・・今夜は帰らんから・・・』
『そんな・・・』
天使が作る例の眉をひそめる表情に戸惑いながらも、照れくさそうに男が言った。
『堪忍や・・・
さすがに武と今日は目を合わせられんからな。
どこぞのホテルにでも泊まってくるわ・・・』
『ず、ずるいわ。
私一人に・・・』
口を尖らせて抗議する恵を、もう一度腕の中に抱きしめ返すと愛おしそうに言った。
『好きや、恵・・愛しとる・・・
もう、離さへん・・・
俺の残りの人生を全部、お前にやるわ・・・』
義父の言葉に瞳を潤ませて恵も言った。
『うれしい・・私も、私も大好き・・・
愛している、お義父さん・・・』
その言葉に男は唇でお礼をした。
愛の誓いのキスを暫らく味わった後に、ようやくさっきの続きを話し出した。
『そやけど、武は俺の息子や・・・
ものすごぉ勝手な話やけど・・・
お前ら夫婦の幸せを壊すんはイヤなんや・・・』
『お義父・・さん・・・』
『お前は・・・何も、悪うない。
俺一人、地獄にでも何でも落ちやええ・・・
そんでも、お前だけは絶対放さへんでぇ・・・』
『お義父さん・・お義父さん・・・』
涙が溢れてくる。
啓介の腕の中で肩を震わせている。
男は優しく髪を撫でながら続けた。
『俺は今、物凄ぉ幸せや・・・
いつ死んでもええ・・・
せやけど自分の立場はわきまえとる・・・
お前の夫は武なんや、俺と違う・・・
俺とお前はそう・・・
夕方までの恋人なんや・・・』
『夕方までの・・・恋・・人?』
涙で塗れた瞳を向けて恵は言い返した。
男は愛しい天使の涙を指で拭いながら繰り返した。
『そや、夕方までや。そんでええ・・・
そんで十分なんや・・・』
そして貪るように天使の唇を味わうのであった。
義父に唇を預けながら、恵は心の中で何度もその言葉を繰り返すのであった。
(夕方までの・・恋人・・・)
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そして、翌日の朝。
漂っていた白い海の一角が崩れたかと思うと、弾ける笑顔が現れた。
義父の啓介であった。
「おはようさん・・・」
嬉しい驚きに、天使は零れる白い歯を新しい恋人にプレゼントするのであった。