赤ちゃんの見てる前で-3
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それから半月ほど過ぎたある休日。
私はマンションの自宅前の廊下で、管理会社のひとと話をしていた。
数分後話がすみ、家の中に戻ると某平の泣き声が響いている。
あわてて居間に向かうと、カーペットの上で泣く某平の横で父親であるダンナがディスプレイに向かってゲームをしていた。
「こら!」私はダンナのヘッドフォンをはずした。「何してる!某平ちゃんが泣いてるでしょ!」
ダンナは「あ、本当、泣いてる……でも、さっきまでおとなしく寝てたよ。」
「ウソつけ!」私は某平を抱いて、身体のようすを確かめながら言った。「ゲームに夢中で忘れてたんだろ。二、三分だけ泣いてた顔ではないわ。」
私が抱くと某平は泣きやんだ。まだ涙にそまった某平の瞳を見つめながら、私は歌いはじめた。
ねんねこ ねんねこ ねこたこえ
ねんねば やんま(山)がら
もうっこ くらあね
あねさま こさえた からねこ(唐猫)ご
たんばっさり ぼんぼっさり
ままか(飯食)えで
それでも 泣げば
やんまさ 捨てでくる
寝ろじゃ やえ やえ やえ……
某平は目を閉じて寝息をたてた。
ダンナは「何それ、ずいぶんキキメある歌だね。」と驚いていた。
私はそんなダンナに、かすかに舌打ちした。
(あの強姦野郎の方が、某平の心をよくとらえてた、ってことかよ……)
付記・歌は作者が遠い昔ソノシートでよく聴いた伝承曲の子もりうた。
歌詩は少々記憶が怪しい。
【おしまい】