with a smile(秋良と美冬・1)-1
「……ら、あきら。秋良ちゃん、起きて」
控えめに肩を揺さぶられて、俺はうっすらと目を開けた。
見慣れない天井が見える。遠くからちゅんちゅんと鳥の囀る声が聞こえる。
まだはっきりとしない意識のままゆるりと視界を動かすと、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる姉の姿があった。
「…………おはよ」
眠さのせいもあり、かなりぶっきらぼうに呟く。のろのろと上半身を起こし、髪をくしゃくしゃと雑に掻いた。
「あ、う、うん、おはよう。秋良ちゃん、あのね……」
言いにくそうに言葉を濁す姉に、俺は少し苛立つ。
どうも俺の姉は少し気が弱いところがあるらしく、俺に対してあまりはっきり物を言わないことが多い。
「なんだよ、美冬。言いたいことがあんならはっきり――」
言えよ、と言いかけたところで、俺の意識が一気に醒めた。
枕元に置かれた目覚まし時計。それが指し示している時刻が、俺が起床するべき時刻を既に大幅に過ぎている。
「ちょ、おいっ! なんだよ、美冬、この時間っ! やべ、遅刻するじゃんか!」
俺は弾かれたように布団から飛び出すと、壁にかけられていた制服を引っ掴んだ。
昨夜、美冬が丁寧にハンガーに通してくれた夏服のシャツ。その袖を乱暴にハンガーから引き抜きながら、パジャマの上をむしり取るように脱ぎ捨てる。
「あっ、あの、ごめんなさいっ……。私、何度も声はかけたんだけど、 秋良ちゃんすごく気持ち良さそうに寝てて、だから……」
背後からおろおろとした美冬の声が聞こえる。
「あーっ、もう!」
俺はその声を振り切るように大きな声を出すと、上半身裸のまま勢いよく振り返った。
美冬は肩をびくっと震わせて、言葉と動きをぴたりと止める。
目をまあるく見開いて俺の姿を呆然と見つめた美冬は、数秒後、固まったままで、その顔をみるみる真っ赤に染めた。
「……あのな?」
すう、と深呼吸をひとつして気持ちを落ち着ける。
「目覚ましが鳴っても起きなかった俺が悪いんだから。美冬は何も、気にしないでいい。 いいから、もう、あっち行ってろって」
諭すように静かな声で言うと、美冬も落ち着いてくれたようだった。
赤い顔のまま素直にこっくりと頷くと、俺にくるりと背を向けて、襖の向こうの小さな台所に戻っていった。
小さなアパートだ。廊下なんて大層なものはなく、6畳の和室がふたつと台所、すべての部屋が襖で続いている。
俺は慌ただしく着替えながらも、美冬の後ろ姿を覗き見ることができた。
まだ少し落ち込んでいるのかもしれない。 動作が緩慢で、なんとなく俯き加減だ。