誠意-6
「 おはよう 」
拓哉が 青い顔で台所に立つ麻衣に声を掛けた
「 部長は? 」
「お昼から 約束が有るからと言って 朝早くお帰りに成ったは 」
暗い顔で言い 前に座ると
「 昨日 部長さんが言ってた事 説明して欲しいの 」
前に座る 麻衣の顔に 悲しみが浮かんでいる
2週間前
「川田君 明日の横川商事さんの契約 よろしく頼むね」
営業課長に 抜擢され 初めての契約 毎年の更新契約だが
毎年 営業課長の ボーナスの様に 決まった契約で
上期の ボーナスの査定に上乗せされる
営業課長へのご褒美の様な契約だった
「 今年も 前期の5パーセントアップで 話を付けているから 」
森が 笑顔で川田を見て 言って来た
「 君を抜擢したのは 私だから 期待しているよ 」
目の奥に 鈍い光を見せて拓哉を見て
森が机に顔を落とすのを見て 拓哉は頭を下げ
席を後にした
「課長 良いですね 明日の契約 」
2課の樋口が 羨ましそうに 川田の作業を見つめて
「 毎年の契約で 課長はインセンティブ 」
流石ですね 嫌味の籠った言葉を吐くと
自分の席に戻る後ろ姿を見て 拓哉は溜息を付いた
森の腰巾着 木下と二人 時折3人で飲みに出掛け
社内で二人の前では 森の事を話す事は タブーと
暗黙の事だった
二日後
「 川田君 」
森が険しい声で 拓哉を呼ぶと 目の前に契約書を投げて
「 どういう事だ 説明してくれ 」
拓哉は 何を言われているのか 分からず 立ちすくんでいると
「 金額だよ 金額!!! 」
川田を睨みつけ 森が吐き捨てる様に言って来た
「 ??? 部長に言われたように 5パーセントの上乗せで・・・」
拓哉の言葉を聞き 吐き捨てる様に
「 もう一度 見て見ろ 」
契約書を 押し出して来て 拓哉は 契約書を開き 金額を確認して
青い顔に成り
「 部長 」 森の顔を見た
拓哉は何度も 確認して仕上げた契約書 4億5千万の契約書の数字が
2億5千万と書かれ 契約書の最後に 双方の社印が押されて
川田の名前も書かれていた
「 2億円 どうする? 」
深い溜息を付き 森が川田を見て
「 辞表を出すか? 」
拓哉は 今でも 時々思い出す事が有る
あの日に あの時に 何故? はいと答えて
新天地を求めれば あの1年は無かっただろうと
妻の麻衣は 変わらないままの
優しく美しい妻で居たのにと