第二十一章 紅茶の温もり-1
【啓介と同居 三ヶ月目】
【20●1年3月25日 AM10:00】
一時間後。
武の書斎で。
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「ほぉ・・・」
息が漏れた。
義父がいれてくれた熱い紅茶を手の平で包むようにして飲んでいる。
少し移動した窓からの日差しが、まだ乾かない涙の跡を照らしていた。
カップからの湯気が微かに漂い、恵の長い睫毛の廻りで消えていく。
「おい・・しい・・・」
ため息ともつかない声は男には届かない。
それでも虚ろな潤んだ瞳を向けると、恵はお礼の代わりに白い歯をこぼした。
啓介も照れくさそうに笑顔を返す。
温かかった。
紅茶の温もりが身体の中に染み込み、背中には太陽の光がカーディガンの如く包んでくれている。
もう一度、天使は微笑みを投げた。
何も言わず見守ってくれた男は、熱い紅茶を運んでくれた。
泣きはらした目を向けると、滲んだ義父の顔がぎこちなく口元を緩めた。
そっと差し出すティーカップから、アールグレーの香りが湯気と共に立ち昇っていた。
絶望のどん底に突き落とされていた気分が、温もりと共に引き上げられるような気がした。
義父の笑みと紅茶の温もりに、恵は少しずつ癒されていったのだ。
フローリングの床に二人は向かい合って座ったまま、暫らくボンヤリと過していた。
時折さえずる、ひばりの声が心地良く耳に届く。
どの位、時間が経ったであろうか。
大げさに膝を叩いて義父が言った。
「よしっ・・・。
メシでも食いに、いこか・・・?」
無邪気に微笑む男に再び天使の笑顔を返す恵であった。
ひばりが又、一声鳴いた。