気付いた想い-3
あたしは何も言えず、立ち去る奈津美ちゃんの背中を見て考える。
あたしが淋しそうだと彼女は言う。あたしが気付かないふりをしていると彼女は言う。
淋しかったのは、いつも一緒に登校をしていたあの子が今日はいないから。
クラスマッチで一緒になって汗かいて、喜びを分かち合ったあの子は今日はいない。
サマースクールで一緒感動したあの子と今日は手を繋いでいない。
夏休みにお祭りで二人で見た花火。今日は窓から見える星月をあたし一人で見ているだけ。
いつもいたあの子が。貴方が。涼子ちゃんが。今日はいない。いない。
あたしは窓に手をかける。外が暗いせいで、窓は鏡のようにあたしの顔を写していた。
『どうして、そんな顔をしているのよ』
あたしは鏡の向こうの姿に問い掛ける。
鏡の向こうのあたしは、そんな事もう分かっているでしょといった顔をしていた。
『好きなの。好きになっていいの?関係ない。あたしは涼子ちゃんの事が。』
気付かないふりをしていた。でも、限界だった。気付いてしまった。胸は熱い。
『淋しい。淋しい。淋しい。あたし、涼子ちゃんに会いたい』
窓にうつるあたしは可愛いくない顔で涙目で。それでもその顔は何かを吹っ切った顔をしていた。
『はい。お疲れさま。』
彩夏と別れて、こちらも少し涙目だった奈津美に意外にも千鶴の声がかかる。
『聞いていたんですか?立ち聞きはいい趣味じゃないと思いますけど』
奈津美は呆れて言う。
『そうね』
奈津美は本気でおこっているわけじゃないし、千鶴も始めからこの場に居合わせるつもりだった。
千鶴の眼前の彼女は弱くはかない。ほうっておける訳無いじゃない。
『好きだったんでしょ』
敢えて誰とは言わない。それがせめてもの気遣いだろう。
『はあ。振られちゃいました。初の恋がまさか!?ですよ』
千鶴は自分の前だと、妙に開放的な態度にくすりと笑う。
『それはただの憧れじゃなくて』
それはもとから確かな答えなんてないと知っていて。とても意地悪な質問。
『さあ、どうでしょう。あたし。結構本気だったんですけど。あんな様子見たら、とてもついていけなくて。』
千鶴はさっきまで彩夏がいたところを見た。もう後戻りもできそうにない。
『相馬センパイ。彩夏センパイはどうなると思いますか?』
奈津美は他意のない顔で尋ねた。
『あたしだって分からないわ。でも、たしかに言えるのは彩夏が確かに恋をしていること。例え、相手が女の子でも、厳しい困難があろうとも、相手が好きって気持ちは誰にも変えられないわ。』
『はあ。やっぱり。センパイって』
『それ以上は言わない約束でしょ?』
そう言う千鶴に、奈津美はうんと頷いた。
『そういえば、センパイ。明日の試合、彩夏センパイはどうするんですか?』
そう言って首を傾げて尋ねる奈津美に千鶴は笑顔になって答えた。
『決まっているでしょ。うちの部のエースは当然スタメンよ。』
奈津美は千鶴につられるように笑顔でうなずいた。
『はい』