第三章 二人きりのコーヒータイム-1
【啓介と同居 二ヶ月目】
【20●1年2月15日 AM10:20】
ダイニングで。
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恵がコーヒーをカップに注いでいると、義父の啓介が階段から降りてきた。
「おぉ、えぇ匂いやな・・・?」
恵はこの関西弁を聞くと思わず身震いしてしまう。
余程、最初に感じた印象が悪かったのであろうか。
自分でも異常に思える程であった。
義父の家とは玄関も別にあるのだが、2階の廊下で繋がっている。
一応、鍵は掛かるのだが出入りは自由にしていた。
食事などは一緒にとるので便利なのである。
もっとも、風呂だけは義父の方でも気を使うのが嫌らしく別にしている。
洗濯同様、時々恵が掃除をしてやるのだが意外とマメで綺麗にしていた。
義父が音を立ててコーヒーを啜っている。
「うん、うまいな・・・」
人懐こい笑顔を見せている。
恵は不思議に思う。
こうしてよく見ると夫の武に似て悪くない顔立ちをしているのだが、どうしてこんなに嫌悪感を抱いてしまうのだろうか。
いや、多分夫と容姿が似ている分、好感を持つ事に対して無意識に避けているのだろう。
どうしても、そう考えてしまう。
一緒に生活を続けていく内に、よく見ると幾つかの欠点を覗けば合格点をあげられるぐらいに義父の態度は悪くは無いのであるが。
一度思い込んだ気持ちを覆すには、余程の事でもない限りありえないのだ。
忘れられないセリフもそうであるが、自分が嫌いになった男に対して心を許す事が、何か不条理な摂理に思えるのかもしれない。