第二章 いらだち(画像付)-4
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当然の事ながら、しおらしく振舞っていたつもりであったのだが、何かと関白振りをひけらかす態度に徐々に苛立っていた。
今は亡くなっていない義母を手伝って台所に立っていた恵であったのに、それがさも当たり前のようで感謝もしないのだ。
しかも酔いながら、大きな声で武に言った言葉は一生、恵の記憶に残るものであった。
『何や、武・・・。
お前、中々・・・
ええ子、連れてきたやないか。
そやけど・・・性格はきつそうやなぁ?
チョッと痩せすぎやし・・・。
胸も、小さそうやないかぁ?』
恵の一番気にしている事を言われて、思わず洗っていた食器を落としそうになった。
義母がハラハラしながら見ていた。
今と同じで聞こえていまいと思っていたのであろうが。
いや、もしかしたらわざと言ったのかもしれない。
女を女とも思わない印象が義父には感じられた。
それからは、なるべく夫の実家には行かないようにしていた。
義母が亡くなってからは人生の抜け殻のようになっていたと夫から聞いていたのだが、今の義父を見ていると到底そうは思えない。
同居する事で自分までも義母のように手なづける気かと、余計な勘ぐりをするのであった。
本当に同居はイヤだったのだ。
だが、マイホームの誘惑には勝てなかった。
だから、恵はそれ以外では決して義父に金を出させなかった。
家具も自分達の貯金で買った。
たまに食事や買物に誘われるのであるが、全て断っている。
『すみません・・婦人会があるんです』
言葉は出来るだけ丁寧にしている。
決して自分から弱みを見せたくは無かった。
頭の奥底にこびり付いている義父のセリフが、恵の心を頑なにしていた。
(胸も、小さそうやないかぁ?)
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『本当に・・・イヤ!』
余りに頑固な妻に対して、それ以上は強制せずに眠りにつく武であった。
夫の寝息が聞こえてくると、涙で濡れた顔を上げて恵は呟いた。
『いや、なん・・・だから』
でも、その声に気付かない夫に寂しさを覚える恵であった。
もう、夫にとって自分は無理にまで奪う程の対象では無いのであろうか。
どうして、もっと愛していると言ってくれないのか。
矛盾した想いが頭の中を駆け巡る。
恵は重い気持を引きずりながら眠りにつくのであった。