第二章 いらだち(画像付)-2
折角の新築の壁紙が雑巾でふくと黄色い染みを作るほどであった。
恵はこの家が汚れる事をひどく嫌った。
結婚してからも、さして贅沢もせず夫の少ない給料でやりくりしてきたのだ。
「思い入れ」が違うのである。
神経質な位、徹底的に掃除をする恵にとって非常に不愉快な事であった。
しかし夫の言う通り、この家は義父が金を出して買ったのだ。
関西のある地方に住んでいた義父は2年前に妻を亡くしていた。
そのせいか一時は老けて見えたのであるが、三回忌が終わってようやく吹っ切れたのか生気を取り戻したようにハツラツとしている。
人一倍身体が丈夫で、事業も多数成功させていてバイタリティーがあった。
だが超がつく程のケチで、結構な財産がありながら何時も安っぽい服を着ている。
子供も武の上に兄が二人いるのだが、決して援助しようとはしなかった。
多少は期待して武と結婚した恵であったが、直ぐに諦めて貯金する事にしたのである。
だが、どういう風のふきまわしか突然、全ての事業をたたみ上京してきたのだ。
他の兄達に断られたのか、三男である武と一緒に住みたいという。
金も全額出すと言って早速、恵達と二世帯住宅を郊外に捜しにいった。
元々、夫の親との同居がイヤであったからその心配の無い三男の武と結婚した恵であったのだが、想像以上に豪華なモデルルームを見るや承諾してしまったのである。
こんな広い家等、中々買えるものではない。
しかも即金でローンも無いのである。
武もどちらかと言うと、兄弟の中では父に一番可愛がられていたので異存は無かった。
それよりも長い間妻に財布を握られていた分、家賃さえも無くなった今となっては、いくら安月給でも遊ぶ金に事欠かなくなった。
あくの強い義父と正反対な武の大人しい性格は案外、うまく噛み合うのかもしれない。
恵も多少の苦労よりも目の前の幸せに飛びついたのである。