迷走〜承〜-6
長い夢を見ていた。夢にしては珍しく恐いほど鮮明な物だった。
「もうすぐで着きますね」
外は雨が止み、朝の優しい光が道を照らしていた。
所々に水たまりができ、光を浴び鏡のように周りの景色を反射していた。
目が霞む。いつのまにか涙が目に滲んでいた。
俺は妹を殺した。彼女にあるはずだった美しい未来も希望も夢もすべてを潰してしまった。
それも一時の直情的な感情で、そんなちっぽけな物で。
どうしようもない。そんな大きな物を小さな理由で潰してしまったのだから。
とても責任を取れるものじゃなかった。
「予報では今日も雨なんですけどね」
結局妹じゃなく、俺が変わってしまっていたのだ。俺は妹が好きだった優しくまじめで誠実な兄ではなくなってしまった。
だから妹は俺から離れた。そしてどこかでまた自分の好きだった兄に戻ることを願っていたに違いない。
「引き返してくれ」
「へ?」
「いいから引き返してくれ」
「もうすぐそこですよ」
運転手は前方を指差す。堂々と連なる山々が見える。深い山だ、あそこに捨てに行けばおそらく到底見つからないだろう。
「自首する」
「…そうですか」
運転手は小さく笑った。彼にも人の心はあるようだ。
「引き返すんですね?」
「ああ。できるところまでな」
「大変な道になるでしょうが、頑張ってくださいね」
運転手はハンドルを切り、車をUターンさせた。
そう引き返すんだ、妹が好きだった頃の兄に。それが妹の願いであるのなら。
「やってやるさ」
涙が頬を伝い口の中に落ちた。柔らかくて甘酸っぱい味がした。