迷走〜承〜-4
「そうなるか」
「そうだよ、突然だったんだもん。お兄ちゃんとお風呂楽しかったのにさー」
加奈は腕を組み、まったくと言った感じに言った。
「悪かった」
俺はシャンプーに手を伸ばした。
シュシュ白い粘り気のある液体が手のひらに落ちる。それを頭に塗りたくり泡立てた。
泡が入らないように目を閉じる。目の前に暗闇が広がった。
しばらく泡を立てていると股間に何やら柔らかな感触を感じた。
「!」
目を開けようにも開けたら泡が入ってしまう。いったい俺の股間に何が起きたのか、確認することはできなかった。
何やら柔らかな物にすっぽり股間は包まれた。そして、さらに柔らかな何かが直接俺の分身に触れた。
「加奈…何やってんだお前」
目は見えないにしても加奈が何をやらかしたのは予想がついた。
「ひもひぃ?(気持ちいい?)」
口にアイスバーでもくわえているような声。予想は確信へと変わった。
「汚いから舐めるな。ばい菌だらけだぞ」
「ほうへぃひたなひ?(包茎汚い?)」
シャワーを捻り、加奈のいるであろう位置にぶっかけた。
「わぷぷ!何すんのさ!」
「何すんのはこっちの台詞だ!このド変態!」
シャワーで頭の泡を流しながら俺は答えた。
「だって、結城ちゃんがお兄ちゃんきっと喜ぶって…」
結城、妹もとんでもない友達を持ったものだ。
「だからってな。やっていいこと悪い事の区別はつくだろ!」
「だって、だって…」
「だってもクソもない!お前なぁ…」
ようやく泡が落ち、目を開いた。そこには歯を食いしばって涙を流す妹の姿があった。
「ヒック…お兄ちゃん…喜ぶって…」
涙は女の武器、昔の人は巧く言ったものだ。こんな小さな女の子ですらその武器を使えるのだから。
「悪い言い過ぎた。俺の事考えてたんだな、ありがと」
つくづく甘い兄だと思いながらも加奈を慰めた。ポンと頭に手をやると、加奈は安心したように俺に身を預けた。
「俺は何もしてもらえなくても、加奈と風呂に入れて充分に嬉しいよ」
「臭っ…」
加奈は短くそう言った。
「ねぇお兄ちゃん。体洗って」
「もうお前なんか知らん」
「お兄ちゃんごめんね」
「謝っても許さない」
兄としての素晴らしい一言を無にされた俺は加奈の手伝いは一切してやることをよした。
なので俺は先に湯船に入って、加奈を見物していた。加奈にとって腰まで伸びた長い
髪を一人で洗うのは容易なことではないだろう。
「もういいもん!自分で洗うから」
ぷぃっとそっぽを向いて加奈はシャンプーに手を伸ばした。
それを頭に塗りたくるかと思いきや思い切り臍の辺りにぶちまけた。
白い粘り気のある液体はまるで男の欲望の結晶、精液を連想させた。見る人が見ればこの光景で何杯かいけるはずだ。
そんな姿をジッと眺めていると加奈の悪戯気な笑顔が視界の端に写った。
「お兄ちゃんのえっち〜」
「それもまた結城ちゃんの差し金か?」
やんわりと兄らしく余裕を持って俺は言葉を返した。加奈は目を見開き、驚いた。
「な、何でわかったの」
「どうしようもないな結城ってのは」
「お兄ちゃん興奮した?」
加奈はニヤニヤとした笑い顔で聞いた。実の妹に興奮するヤツがいるのなら是非見たいものだった。
その問いは無視して俺は天井を見上げた。水滴が蟻の卵のようにひしめいている。いつ落ちてくるかわからない、まるで獲物を狙うカマキリのように水滴はジッと俺に標的を定めていた。俺は昔からこの光景が嫌いだった。
群れている物を本能的に嫌っているのかもしれない、いつ落ちるかわからない水滴に苛立ちを感じているのかもしれない。それは今も理由がわからないままだった。