甘い同棲生活F-6
「ーーそうだよ」
この理央の一言は、重く、自分にものしかかった。
*
柚木もいる手前、理央は何とか食卓で明るく振舞おうとした。
努めて、普通に。
いつも、柚木が寝るタイミングで理央も一緒に二階に上がる。
そして寝るまでの時間を、理央は自分の時間として使うのだが、今日は落ち着いてそんなことができる心持ちではなかった。
階段を降りて、キッチンにいる加奈子に声をかける。
「加奈子……」
ぼそぼそ……っと自信なさげな、小さな声が出た。
加奈子はパジャマ姿で、ダイニングテーブルに備え付けの椅子に座り、スマートフォンを触っていた。
「なあに? 寝なくていいの? 午前中、すごい具合悪そうだったでしょ」
あまりに加奈子が普段通りすぎて、理央は唇をくっと噛む。
とぼとぼと近寄って、加奈子の腕のあたりの布を引っ張った。
「一緒にお布団、入る……」
「ん。しょうがないなあ」
キッチンの電気を消して、常夜灯がついた和室へ移動し、一枚の布団の中に二人で入る。
理央は、いつものように抱きつくことができなかった。
見かねた加奈子は自分のメガネを外し、理央のメガネをも外すと、自分から理央を左手で引き寄せる。
「もう一度言うけど……あたし、我慢させるの嫌だよ。心配なの。あたしのせいなら、なおさら。お酒で、潰れるなんて滅多にないんだから」
心配そうな顔でじっと見つめられる。
何故、こんなにも加奈子は優しいのか。
理央は加奈子の背中に手を回して、ぎゅううっとようやく抱きしめることができた。
清潔感のあるボディソープの匂いと、加奈子の甘い香りが鼻腔の中を漂う。
口元からは、歯磨きをしたばかりなのだろう、歯磨き粉の香りがする。
「違う、逆。我慢してない。我慢できないのが嫌」
「え?」
「加奈子は僕といると、安心するって言うじゃん。僕は、ずっとどきどきしてる。息が続かなくなりそうになるの。ーーこの間も、強引にしちゃった。嫌だけど、でも」
言いかけたとき、言葉を遮るように、人差し指が理央の唇に押し当てられた。
「それ、あたしのこと大事にしてくれてるからじゃない。だから嫌だって思うんでしょ。それで十分。あたしが悪いとか、理央は言わないもの」
「んぅうう。今日絶対我慢するって思ってたのに、何でそういうこと言うのっっ」
ぎゅぅうっと加奈子の体を抱きしめる。
木綿子の隣で眠った時、確かに人肌や、彼女のにおいに安心する感覚はあった。だがーー
こんなにも揺さぶられるのは、加奈子なのだ、と思わざるをえない。
「何の我慢? 我慢、させたくないって言ったばかりじゃない」